2014年のフランス映画。
青春映画ですね。すごくよかった。
久しぶりに映画を見て泣きました。
フランスの片田舎で酪農を営む一家。
父と母、姉と弟。四人の家族は、娘であるポーラ以外全員耳が聞こえない。
とても明るく、団結力のある素敵な一家なんだけど、
両親と弟の話をほかの人々に伝える役目はポーラが負っている。
市場でチーズを売る時に客と話すのも、商売相手と電話で話すのも。
ポーラは聡明で働き者の少女なんですが、ごく普通の高校生でもある。
学校で始めたコーラスの活動に参加すると、
音楽教師から才能を認められてパリの学校へ通ってはどうか
(通うための試験を受けてみてはどうか)と提案される。
けれどポーラが去れば、家族はきっと困るだろう。
自分の夢と人生、自分がいなければきっと大変であろう家族。
まだわずか十数年しか生きていない彼女は、悩んで、ぶつかって、そして結論を出す。
そういうお話。
そこまでたくさん見てきたわけではないんですが、
フランス映画は本当にフランス、って感じがするんだよね。
日本ともアメリカとも全然違う。もちろんイギリスともドイツとも、どことも違う
完全なるフランス色だなって思うんです。
以前「八日目」という映画を見て思ったんですが、
フランスの人って障碍を抱えている人に対しても本当にまっすぐですよね。
もってるもんは仕方ないじゃない。そういう人生なんでしょ?って。
見ぬふりとか、極端に親切にするとか、そういう雰囲気があまり感じられない。
ものすごく対等な印象がするんです。
この映画もそうで、障害を抱えた主人公一家側もものすごくまっすぐ。
村の農地をつぶされてたまるかという思いからお父さんが村長に立候補するし、
家族はみんなで協力しあわなきゃダメ、
女の子は年頃になったら男の一人や二人できなきゃ、
医者にやるなって言われても愛の営みはやめないし、
彼氏ができたら即座に「もうやったのか?」と、なる。
そもそもすべてのものに対してストレートなのかな。
両親が医者にかかる時の通訳も娘がしていて、
夫婦の性生活をどストレートに伝えている姿をみて
おうってなりましたよ。
オープンかつストレート。
これがフランスなのかと、私の中にはちょっとイメージができつつある。
(違っていたら申し訳ないし、全部が全部そうだとはさすがに思ってはいなんですけどね)
耳が聞こえない家族に対して、ポーラは歌いたいと言い出せません。
家から出ることになれば困るだろうとわかっているから、なかなか決意できない。
自分の人生が大切だと理解して決意してみれば、
母からはかなり強烈な否定の言葉を投げかけられる。
あなたが生まれた時、耳が聞こえると教えられて絶望した、と。
うまく育てられないだろうと自信がなくなったって、言われちゃうんです。
お母さんの言葉はめちゃくちゃなんですけど、
それに対するお父さんの慰めもなんだか不思議なもので。
耳が聞こえないかもしれないんだから、同じように育てればいいよって。
でもね、聞こえるんです、ポーラは。
それに、歌がうまいんです。
家族がポーラのコーラスの舞台を見に来たシーンは、本当に胸が詰まりました。
いきいきと歌う高校生たちの声が、途中でふっと消えてしまいます。
家族に見えている光景は、こうなんですよと。
なんの説明もなく差し込まれてね。
ああ、そうなんだよな。音がない世界って、あるんだなって。
それが悲しいとか、辛いとか、そういう表現の仕方ではなくて、
この人たちにとってはこうなんです、と淡々と見せつけられる。
歌に喜びを見出す娘の世界を、家族はわからない。体感できない。
それはもう、絶対に仕方ないことなんですよね。
お母さんは、娘が家族を捨てようとすることをどうにも許せないし、
自責の念がある。自分が愛し育てた赤ちゃんが、なぜいなくなるのと。
だけどお父さんは、娘の姿に感じるものがあったんでしょう。
舞台のあった日の夜中、胸に手を当てて、歌ってくれっていうんです。
声は聞こえなくても、歌のエッセンスは感じとったのかな。
どんな歌詞だったのか聞いて、考えて、試験を受けにいけって
ギリギリで家族で送り出すんです。
で、最後。ぎりぎりでオーディションに参加させてもらったポーラは
選曲が地味すぎて審査員に鼻で笑われちゃったりする。
だけど音楽の先生が駆けつけてくれて、伴奏をしてくれて、
そしてとうとう、歌を家族に届けるんですよ。
彼女の歌声の力強さはとても素晴らしくて、
家族への思い、自分の人生を歩みだす青年らしい決意を
高らかに、堂々と、ステージで披露するんですよ。
それがほんとうに、美しくってね。
真摯な歌声は耳には届かなくても、心には届くんです。
まっすぐなものって遠くまで届くし、すっと刺さるんだなって。思いました。
ポーラを演じた女の子はオーディション番組で見出されて、
これが映画初出演だったとか。
そしてお父さん、どっかで見たと思ったらタンゴ・リブレの無口な看守。
自分のそばに存在しないものについて考えたり思いを寄せたりすることは難しいです。
私も、あまり耳の悪い人の世界について考えが及んでおりません。
だけど映画や、ドラマはその世界の一端を見せてくれて、
自分が身を置かない場所について少しだけ、考えるように言ってくれます。
私が最近映画を好きだと思うのは、そんな風にささやいてもらえるからなんでしょうね。
こんな風に考えさせてくれるのに、明るくて優しい映画でした。素敵だった。
PR