映画の日は1000円だーって、新宿の映画館に通っていた。
半年くらいでやめてしまったんだけれども、その頃公開されて
ちゃんと映画館で観た作品の一つが「アメリカン・ビューティー」でした。
「わけがわからん」「なんでアカデミー賞をとれたのか」みたいな感想が多くて
私もまだあの時はよくわからなかったというか。
幸せだと信じていたものが壊れて、諦めの先に幸せがあったのだ、
みたいな感想は持ったと思うんだけど、
確かに主人公のレスターはちょっとキモイんだよね。
娘の同級生に一目ぼれして、そこをきっかけにブチ切れていく。
あれからもう15年ほど経ったので、きっと印象が違うだろうと信じて見てみると
先日みたばかりの「ノー・カントリー」と通じるものがあるな、と思いました。
自分達の信じていた幸せ、理想の形、追い続けていれば必ず勝者になれる、
みたいな幻想が破れて、その先にかつて自分が愛していたものを見つける。
一体なにが本当の幸せなのか、レスターは見つけて、なんというか
超越した人になったんだろうな。あのモノローグの感じからすると。
物質やステータスに縛られるなんてくだらないよ、
「こうあらねばならない」なんてただの思い込みだよ、と語りかけてくる感じ。
息苦しい職場、夫婦関係の破たん、反抗期の娘、幸せな家庭の過剰演出で
追い詰められたレスターは、ある日娘の同級生であるアンジェラに一目ぼれしてしまう。
あらすじは割愛するとして、
短期間で「隣人がやってきて」「父が恋に落ちて」「妻は不倫」「娘も恋をする」と
ものすごく色んなことが起きる。
妻のキャロリンが庭でせっせと育てている赤い薔薇。
あの真っ赤なバラが「アメリカン・ビューティ」。
幸せで優雅な暮らしをしていると周囲にアピールするための薔薇は、
妄想の世界でアンジェラを美しく彩る。
対して、レスター一家を隣から観察し続ける隣家のリッキー。
彼の世界は白い。純粋で、世界の向こう側をみているかのような達観した青年。
アンジェラへの一目ぼれと、パーティで出会ったリッキーの軽快さに
レスターの中でなにかが壊れてしまう。
それまでしていた我慢をやめて、思うままに生きようと決める。
少し筋肉をつけたら素敵だと思うというアンジェラの言葉を信じて鍛え始め
会社は辞める。しかも脅して退職金を巻きあげる。
欲しかった真っ赤な車を買って、妻には見切りをつける。
そして運命の日。
妻のキャロリンは不倫がバレて、相手と別れる羽目になる。
レスターからの冷静な言葉から少しおかしくなって、銃をバッグに潜ませて家へと向かう。
彼女は情けなく自分のいうことを聞かない夫を疎んでいたけれど、
不利な条件で離婚をしたくなかった。
自分を蔑んだような目でみるようになり、それまで築いてきたあらゆる彼女の美学を打ち砕いたから。
決意を固めるために、自己啓発系のスローガンを延々聞きながら家へと向かう。
お隣の大佐宅でも、事件が起きる。
自分の大切なコレクションに触れたと激怒し、息子を殴る。
ついでにリッキーの撮っていたビデオを見て、レスターに買われていると勘違いしてしまう。
彼は最初から「ゲイは憎い」とずっと公言していて、でもそれは実は
彼こそがゲイだったから……なんだよなあ。と思います。
それまでは、「最終的に従順」だった息子はキレて、しかも「男に買われてる」と言い(嘘だけど)
それで多分、プチっと切れちゃったんだろう。
息子に出て行かれただけではなく、「息子までゲイだった」、
しかも目の前でカミングアウトされた……というトリプルショックから、
それで多分、レスターのもとへ向かってしまったのだと思う。
レスターのビデオを見て、ときめいたんじゃないかなあ。
優しく迎え入れてくれた彼に、ついついキッス。
その後の対応がまた優しい。突き放すのではなく、そういうのダメよ俺違うしって、諭す。
リッキーは家出を決意し、ジェーンと共に出て行こうとする。
リッキーが好きじゃないアンジェラは止めるけれど、
ジェーンは「アンジェラよりもリッキーを取る」と宣言。
自分よりも見劣りする誰かを横に置いておきたいだけだろう、なんて言われて
アンジェラはすっかりハートブレイクしちゃうのです。
誰も彼も「こうありたい」「自分像」を追いかけすぎていて、ヘトヘトだったのだなあと
今回は観て思いました。
レスターは「妻の期待に応えて」「嫌な職場でもちゃんと働いて」
キャロリンは「出来る女」「素敵な家庭」「親としてもちゃんとしている」
大佐は「男らしくて」「軍人らしくて」「強い」
アンジェラは「男にモテモテ」「経験豊富」「ワンランク上のオンナ」
まずはレスターが虚像を追うのをやめて、
彼の運命の日に、他の面々も自分の理想が破れたのを知る。
なにもかも嘘、まっかな嘘なんだなあって。イメージカラー、赤だよね
(海外でもまっかな嘘っていうかどうかはしらんけど)
キャロリンは見下していた夫に「弱みを握られた」と思い込む。
実際には、レスターはそんな風に思っていないけれど。
アンジェラは被っていた仮面を落として、レスターに「経験がない」と告白する。
男なんて盛るばかりだと思っていたのかな、その後の紳士的な対応に、思わず涙してしまう。
そして、この日をレスターの最後の一日に変えた大佐は、
きっと「これまで隠し続けてきた自分の弱さを知られてしまった」から
あんなことをしたんだろうなあ。
自分を認めるよりも、隠し続けることを選んだ。そんな風に思いました。
そして変わり果てたレスターを見つけて、思わず彼の服を抱きしめるキャロリンですよ。
こどもたちのショックは当然なんだけれど、キャロリンの様子にはホント、
男女の愛の不思議を観たような気分です。
憎たらしいけれど、やっぱり、一生をともにしようと誓った相手なんだもんね……。みたいな。
あんな最期を迎えるほど、酷い人ではなかった。そういう思いが残っていたわけで、
なんというか、人間の妙がこれほどまでぎっしり詰め込まれている映画もないかなって。
今ならば、アカデミー賞とって当然ですなって言えます。
いい映画だった。
そしてどうでもいいけど、リッキーの顔、ものすごく猛禽類でした。
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