引き続き、イニャリトゥ監督祭りを継続しています。
こちらは2003年の作品。
これもまた、少しばかり難解に見える作りの映画でした。
過去と現在が細切れになって交錯し、なにがどうしてこうなったのか
最後にやっとわかるっていう。
主演はショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ、ナオミ・ワッツなど。
タイトルの21グラムは、人の魂の重さといわれている数字です。
人が死んだとき、体重が21グラム減る。そういう実験結果があり、発表されております。
この映画のテーマは、やっぱり人生でした。
生きて、いつか死ぬ。その間にある時の中で、人はなにを見てなにを思うのか。
イニャリトゥ監督は人の命をじっと見つめ、考えている人なのでしょうね。
この映画の中で起きたすべてが、細かく砕かれ、
順番をミックスされて繋がれているので、
なにが起き、どうなったのか、しっかり見ていないとおいていかれてしまうでしょう。
登場人物は、
心臓に病を抱え、余命があと一か月と言われている大学教授とその妻。
前科があるものの、キリストの教えに出会い、人生をやりなおそうとしている男と、家族。
そして、かわいい娘二人と優しい夫と暮らしている一人の女性です。
キリストの教えに従い、まっとうに生きようと日々を過ごすジャック。
彼はある日、うっかりして事故を起こしてしまう。
車をターンさせた時横断していた父と娘たちに気が付くのが遅れ、
三人をはね、そのまま逃走してしまうのです。
家族の帰りを待つ母、クリスティーナにかかってきたのは一本の電話。
帰ってくるはずの夫と二人のかわいい娘たちが事故にあったと。
病院にかけつけるも、夫は重症、娘たちは既に命を落とした後。
懸命な治療の甲斐もなく、夫も脳死の状態になります。
すぐに臓器提供の話が持ち掛けられ、クリスティーナはそれを受け入れる。
脳死してしまった夫マイケルの心臓は、移植を待つ大学教授ポールに埋め込まれます。
健康を取り戻し、冷え切っていた夫婦仲はすこし回復。
だけど、一度入った亀裂をきれいに戻すのは難しい。
一度は夫を見限り、中絶していたことがわかって、
人工授精をするという妻メアリーを、マイケルは拒絶します。
死んでしまうからもしれないから、という理由で、メアリーは子供が欲しかった。
だけど、死んでしまうのにこどもをもうけるのですか?とマイケルは言われてしまう。
非常にシビアな、三人の運命が描かれます。
こどもと夫を失って、クリスティーナは荒れに荒れてしまう。
むかしやっていた薬を再び手に入れ、感情のままに他人に当たり、
まともに食事もとらないような生活に陥ってしまう。
一方で、罪のない家族を殺してしまったジャックも苦しみます。
現場から逃げ、妻はなんとか夫を捕まらないように偽装します。
もう収監されてほしくない。バンパーについた血を洗い流し、証拠を消し去ろうとする。
結局ジャックが犯人だとわかって逮捕されるものの、
証拠不十分で起訴はされない。
妻はほっとするものの、小さな女の子を轢いてしまった瞬間の光景が目に焼き付いて
自分の罪の深さにジャックは苦しみます。
子を持てずにきてしまったマイケル。
子供を失ってしまったクリスティーナ。
子供を殺めてしまったジャック。
マイケルは、自分に心臓を提供したのがだれなのかどうしても知りたくて、
調べ、不幸な事故について知ります。
クリスティーナに近づき、彼女の深い苦悩を知る。
二人は近づき、仲良くなるも、心臓移植について告げられ、心が乱れる。
一度は安らげると思った相手の意外な正体に、クリスティーナは激昂。
だけどやっぱり、寄り添ってくれる人の温かさは救いになる。
でもやっぱり、ただ受け入れるなんて、できなくて……。
とまあ、クリスティーナに用意された運命は本当に過酷。
マイケルも、拒絶反応が激しくなり、また移植を待つ暮らしは嫌で、
ジャックは罪の意識に苛まれ、
そして最後、クリスティーナの叫びが三人の運命を変える。
ジャックを殺してほしいとマイケルにいうのです。
銃を用意してジャックのもとへ向かうマイケル。
だけど冒頭から細切れの状態で見せられていた映像は、
血だらけになったマイケルなんだよね。
クリスティーナに抱かれ、ジャックが運転をして病院へ走っている。
それがどうしてなのか。
悲しくて、やるせないです。人生ってどうしてこうもうまくいかないのかなって。
だけど不幸のどん底にたどり着いたあとには、
上り坂が待っているものでして。
最後の最後にうっすらと希望の光がさしてきて、終わります。
物悲しいエンディングですけどね。
人がどうして生きて、どうしていろんなことが起きて、
願いがかなったりかなわなかったり、時には根こそぎ奪われて。
この作品は、人として生まれたことをまっすぐに見つめているように思いました。
バベル、BIUTIFULは、人生の不思議を見つめていて、
21グラムは人間そのものを見つめているような、そういう差を感じました。
人生って、楽しいばかりではありません。
とはいえ、ここまで苛烈な体験を私はしたことがありません。
それがいかに幸せなことなのか、思い知らされますね。
そしてどんなに辛くとも、やはり、人生は続くものだよと。
失って失って、時に得て、それもまた失って。
繰り返しながら人は生き、死んでいく。
当たり前のようで、当たり前ではない、命の不思議を、私も少し考えてみようと思います。
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