先週から公開されたので見てきました。
カナダ映画ですが、全編フランス語なのであんまカナダ感ないかも。
というか、私の中でカナダといえばデッドプールになりすぎているだけか。
まだまだお若いグザヴィエ・ドラン監督の作品。
前に見た「トム・アット・ザ・ファーム」が結構心に残ってまして
あの監督の作品ならば見なければならない、となぜか決心。
上映している映画館が少ないので、初めて新宿武蔵野館へ。
改装したばかりということでとってもきれいで、
だけどスクリーンは小さいし前後の傾斜もほとんどなくて
なんだかとっても新鮮な気分に。
主人公は人気作家のルイ。
彼が、12年ぶりに故郷に帰るお話です。
ルイは実は余命いくばくもない状態でして、
自分はもうすぐ死ぬのだと、家族に告げに帰るんです。
待っていたのはちょっと陽気な母と、
小生意気だけどルイにあこがれていた妹、
そっけない兄と、その妻の四人。
空港からタクシーで実家を訪れたルイを、
この四人が迎えてくれるんですが、
そのシーンだけでもう家族の関係性がズバっと浮き彫りになって。
開始5分でもういたたまれないんです。本当に。
妹はあまり一緒に暮らしたことのなかった素敵なお兄さんと近づきたいけど、
そこに長兄の横やりが入りまくってしまう。
母はちょっとズレたテンポで兄弟の溝を埋めようとするも、むしろ逆効果。
そこに、初対面の兄嫁がいることでさらに事態は寒々しくなっている。
初めてだし、どう接したらいいかわからないし、
夫である長兄からは冷たくあしらわれるし、義理の母のテンションも意味不明だし。
ルイはただ静かに微笑み、一言二言返すだけ。
家族の歴史が少しずつ語られますが、
ルイがどうして12年もの間離れていたのか、わかっていきます。
自分に死期が迫っているのだと伝えたくて。
いくらあんまりうまくいかない家族だとしても、
知らないなんてあんまりだから。
ルイはそう考えて、決意してかえってきたと思うんです。
だけどね、だけど、家族はそんな話だなんて想像つかない。
想像つかないのは当たり前なんだけど、
だけどね、聞かないんです。
ルイだけが息苦しい家族の鎖から外れて、自由だって思いこんでいるから。
兄はよくできる弟が妬ましくてたまらなくて、
それであんなモラハラ野郎になってしまったんだろうなあ、とか。
あまりよく知らない素敵なお兄様にあこがれすぎて、妹は空回り。
ルイのように自由になりたくて、だけど一人で飛び立つのは怖くてできない。
母は陽気なふりをして兄弟の溝を埋めようとするけど、うまくできない。
こどもたちを平等に愛しているけど、そう思っているのは自分だけで、
こどもたちからするとひどく歪な三角形が出来上がっている。
そんな不協和音の中にさらされて、兄嫁は困惑するばかり。
夫をたてたい、不機嫌にさせたくない、争いが起きてほしくない、
夫の家族とはいえ、じぶんだけが他人で、どう立ち回ればいいのかわからない……。
ぎこちないまま家族はお互いの心をぶつけあって、
お互いに摩耗していくばっかりなんです。
ずっと、きっと、こうだった。
だからルイは家を出た。たぶん耐えられなかったんじゃないかな。
だけどいなかったことで、家族は余計に遠くなってしまって、後悔は募るばかりで。
どんなに反りが合わなくても、どんなに理解しあえなくても、
血のつながりは切れない。それがどれだけ残酷なことなのか、
最後の最後、ルイが自分のことを話そうとした瞬間のあのシーンで
いやってほど思い知らされてしまいます。
家族ってあったかくって、仲良しで。
そういう家庭の人もいるでしょう。
むしろそんな家庭ばっかりだったらしい。
もしも家族が酷いひとならば、縁を切って当然だって言ってもらえるくらい
本当にひどい連中だったほうがまだ救いがあります。
誰も悪くない。悪気なんかない。だって仕方がない。
うまれもったものが違うから。一人で去る勇気がないんだから。
仕方がないから、性質が悪い。
お母さんの「次は大丈夫」って言葉がキツイ。
美しくて、先進的で、才能があって、素晴らしい人間なんだから。
だからあなたが、我慢しなさい。我慢できる人間が我慢しなさい。
きっとあんなにも重たい告白をする旅でなければ、耐えられたでしょう。
だけど、ルイを待ち受けているのは永遠だから。
家族にこれ以上の別れを突き付けられずに、彼は母の望んだとおりの言葉を口にするしかなくて。
なんて悲しい話なんだろうって、心がカラカラに乾いてしまったような気分になりました。
そんなにも悲しい話なのに、最後まで目が離せないんだよね。
それは、監督の力なんだと思います。本当に。
素晴らしいよね、ドラン監督は。
で、これを見る前にチェックしておかなきゃってことで、
「Mommy」も見たんです。
こちらは、ADHDの息子を持ったシングルマザーのお話。
夫が3年前に亡くなってシングルマザーになったダイアンのもとに、
手に負えないからという理由で、発達障害の息子が送り返されてくる。
スティーヴはADHDに加えて、愛着障害も見られる。
一度キレると手に負えない。いくつもの施設で預かられたけど、
どこも匙を投げてしまって、母親のもとに帰ってくるんだけど……。
こちらももう、おそろしくディープな作りでしてね。
リアルなんだと思います。発達障害ってなんだろなってなった時に調べてみると
いろいろありすぎてなにがなんだかってなってしまうんですけど、
スティーヴはたぶん一番大変な部類に入るんじゃないでしょうか。
行動は、普通のこどもと同じでなんでもできちゃう。
どこへでも行けるし、会話だってできる。
だけど歯止めが利かないし、相手の立場にたって考えることができない。
共感とか、ブレーキとか、欠けているものがたくさんあって、
社会生活を送るのはとても大変なんです。
ダイアンは本当によく頑張って、仕事もするんだけどね。
でも、スティーヴはキレると盗みもするし、暴力も振るってしまう。
薬は飲みたくない、施設なんかに入りたくない。
もちろん、母だって思いは同じ。
ユーモアを持って息子を受け入れ、付き合っていく。
だけど、現実は親子の愛だけじゃ乗り切れるものではなくてね。
新しく引っ越した先で出会った吃音に悩んでいるカイラの協力を得て
親子は少しずつ頑張っていく。
この出会いは休職中のカイラにも変化をもたらして、
いいこともあれこれあったんですけど、でも、最後はね……。
途中いろいろあって、スティーヴに「僕を愛してる?」って聞かれてね。
ダイアンはこう答えるんです。
私たちにはそれしかないでしょ、って。
どれだけ大変でも、どんなにつらくても。
母は子を愛すっていう。
思うことは、たくさんあります。
こんなにも深く考えさせられるってだけで
ドラン監督の作品は素晴らしいです。
まだ見てない作品も見てみようかなと思います。はい。
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