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2016-03-30(Wed)

「BIUTIFUL」

「BIUTIFUL」

2012年、メキシコの作品。
舞台はスペイン、主演はハビエル・バルデムで
監督はアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。
「バードマン あるいは」の関連作として
WOWOWでやっていたのでみてみることに。

映画の筋書きそのものよりも、
その背景にある事情がものすごく多くて複雑な作品でした。

ハビエル・バルデムはうまいね!
ノー・カントリーの時はこんな人類が存在していいのか
と思うほどヤバかったのに。


映画の舞台になっているのはスペインのバルセロナなんですが
その中でも貧しい人々、不法移民なんかが暮らしている
スラムのような地域での話でした。

主人公ウスバルの見ている、夢のような景色から物語はスタート。
ウスバルと話している男の正体は、途中でわかります。

ウスバルは二人のこどもを育てているシングルファーザーなんですが
どうも最近体調がよろしくない。
それで病院に行ってみたら、前立腺のガンに侵されていて、
しかももうあっちこっちに転移していて
化学療法をしながらだったらあと二か月、と余命を宣告されてしまうんです。

まだ幼い二人のこどもをどうするのか、ウスバルは苦悩します。
こどもたちの母親であるマランブラは、
双極性障害(いわゆる躁うつ病)を患っていて
子供に愛情はあるんだけど育てるのは難しい状態。

ウスバルの仕事は、いわゆる裏社会絡みで、
不法移民に仕事をあげたり守ったりしつつ、
そのアガリで暮らしているような状態なんですよね。
彼の生い立ちはあまり豊かなものではなくて、
父親の顔も知らず、母親も幼いころに失っていて、
兄はいるけどやっぱりあやしげなクラブでヤクを売りさばいていたり、
ほめられたもんじゃありません。

とはいえ、ウスバルは情に厚い男で、
移民から搾取はしているけれど、
いろいろ気にかけたり、仲よくしたりもしているんです。

移民に対する警察の取り締まりが厳しくなり、
友人である警官におめこぼしを頼んだけどダメだったり、
寒い地下室で雑魚寝している中国人たちのためにストーブを買うけど
粗悪品だったせいで全員ガス中毒で死んでしまったり、
その始末がうまくいかなかったり
子供を託したくてマランブラとよりを戻そうとしたのに
病状が悪化して結局病院に戻らなきゃならなかったり。

死にたくないと望んでいるのに、ウスバルはどんどん弱っていくわけです。
頑張っているのに裏目裏目に出てしまって、
愛する子供たちを守る手立てがどうしても見つからない。

自分の、社会の片隅の暗いところで生きてきたから
周囲も、社会の片隅の暗いところで生きてきた人間ばっかりなんだよね。
だからうまくいかなくて、
だけどどうにかちゃんとしたくて、
自分のせいで死んだひとびとに申し訳なくて。


こういった状況に陥った話なんだけど、
ウスバルにはある力があるんです。
それは、死者の声を聴くというもの。
死んだ人間が見えるし、彼らの声を聴いて伝える仕事もしている。

この映画にこの設定があるのはすごく不思議なことに思える。
なぜなら、そんなにしょっちゅう生かされていないから。
時々仕事をして、時々死者を見るくらいなんです。

だけど、この力があったからこそ、
ウスバルは道を踏み外さなかったんだろうなとも思うんだよね。
彼らは死者の声を聴いて、たくさんの後悔や感謝、恨み言を聞いただろうから。
幼い子供の告白や、愛する妻への伝言なんかをね。
それに、死者がずっとそばにいる暮らしをしていたからこそ、
自身の死というものに対する思いが人とは違うというか。


こっから下はネタバレ全開になっちゃったから、
見たい人は読まないほうがいい。



で、ウルバルの人生は最後の最後で本当にうまくいかないわけです。
仲よくしていたセネガルからの移民エクウェメを守れず
彼は送還されてしまうんですが、
その妻イヘはスペインに残っていて、
ウスバルはせめてもの償いに、自分の家に招くわけです。

イヘと、彼女の赤ちゃんはウスバルにとって最後の希望というか
チャンスだったのかなって。
ウスバルの仕事は決してほめられたもんじゃないんだけど、
やさしさとか思いやりがちゃんとあって、
ただの労働力としか思っていないような非道な奴じゃない。

なんとか助けてあげたいとか、力になりたいとか。
だから、自分の力になってほしいとも願うんだよね。

なに書いてるかわかんなくなってきたけど、
とにかくウスバルを取り巻く世界の脆さに
見ていて涙が止まらなくって。

明るくて、清潔で、豊かな暮らしとは無縁なんだよね。
社会は彼らを守ってくれない。どんなに苦しくてもダメ。

だから自分たちでなんとかしなきゃいけないのに、
みんな苦しいから。だから、絶対的な信頼が存在しないの。


最後の最後、子供たちを頼むとイヘは大金を渡されます。
家賃は先払いしておくから、自分の子供たちもなんとか頼むと。
だけど彼女は愛する夫のもとに帰りたい。
お金がたまればセネガルに帰るとはっきり言っています。

なぜスペインに残っているかというと、
子供はスペイン国籍を持っているから。
貧しい祖国では仕事もないし、満足な教育も受けられない。
エクウェメは、息子に明るい未来を用意してあげたいんです。
だけどイヘは、異国の地に自分たちの居場所がないと感じている。

この辺の、貧しさに関する問題も深刻に描かれていて
ずーんと重たいんだよね。
エクウェメの願いも、イヘの望みもよくわかる。
彼らの思いを、ウスバルもよくわかっていたと思うんだけど、
それでもほかに頼れる人がいなくて、
お金を託した……。

彼女は荷物をまとめて駅に向かう。
裏切られるのかと思ったら、最後には戻ってきてくれて。


それで、ウスバルは目を閉じるんです。
永遠の安泰じゃないんだけど。
それでも安心して、目を閉じたんじゃないかな。
自分のしてきたことにようやく意味があったと感じて
世の中捨てたもんじゃないと思いながら
静かに目を閉じ、亡き父と森の中で話すんです。



世界は公平じゃないんですよ。
日本では最近貧困って言葉が流行ってるけど
国に守ってもらえるいいところだと思うんすよね。
本当の貧しさや不平等さっていうものを見て、
人のために生き、愛情を注ぐ尊さについて
よく考えたらいいんじゃないかなって。

そんな風に思いました。はい。
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