2013年のオランダ映画。
オランダっていうとどうにもこうにもクレイジーな印象(映画に関して)
だったんですけど、今回はそうじゃありませんでした。
妻を亡くし、息子も独立して一人暮らしのフレッドが主人公。
彼はいつでも時刻通り、まじめ、勤勉、敬虔なクリスチャンとして
自らを完璧に律した暮らしをしている。
ところがそんな彼の暮らしに突然、ひとりの男が現れる。
謎の男なんですよ。最初は名前もわからない。
なんとなくしゃべれるような、意思が通じるような謎の男の名はテオ(あとからわかる)。
なにもできず、なにも持たないテオを家に招き入れ、
なんとか「ちゃんと暮らせるように」しようとするフレッド。
きっちりとした暮らしを、そのせいで少しずつ破っていかなければならない。
いままで通りを少しずつ崩されていくうちに、
周囲からは誤解されたり、思わぬテオの正体がわかっていって、
その結果フレッドの人生は大きく動くことにーー。
というお話。
タイトルがあってなさすぎて、終わってから本当にピンと来なくなるという。
どちらかというと、孤独からの解放、なんですけどね。
原題は「マッターホルン」でして、彼らの最後に行き着く場所です。
とはいえ、マッターホルンだと登山映画かと思われちゃうかもしれませんけども……。
以前にみたフランスの映画「八日目」に似てるかなあ。
あくせく働く男が、ダウン症の青年とつきあっていくうちに
人生ってもう少し自由でいいんじゃないか、と目覚める話でした。
フレッドの人生は、ずっとずっと勤勉だったのだと思います。
息子と別れることになった理由はあとから明かされますし、
あれほど愛していたであろう妻との仲は結構意外なものだったりするんですけどね。
また、テオをなぜ受け入れ、救おうとしたのか。
映画の感想かくサイトなんかみると、わからんという意見がいっぱいありましたが
あれってきっと、本当に敬虔なクリスチャンだったからじゃないかと思います。
貧しく清いものこそが天国に近い存在だから、
彼らをもてなし、一番上等な服を与えなさい、なんて書いてあった気がします。
フレッドの通う教会の祭司よりもきっと、フレッドはまっすぐだったのでしょう。
ところが、テオはフレッドが思っていたよりも複雑な人生の持ち主でした。
彼を思う優しい妻もいる。家だってある。大切にしているヤギもいる。
事故で脳にダメージを負ったせいで、それまでの人生を送れなくなってしまっただけ。
フラフラと彷徨い続ける彼がなぜか、口やかましく、時には怒鳴ったり、
勢いあまって手を出してしまったりしたフレッドを慕い、頼ってくれて。
それでフレッドは、自分を縛っていた規律を、本当の意味で破り始めるんです。
そしてようやく、息子に会いに行く。
キリスト教は認めていないんですよね、同性愛を。
本当に聖書の教えを守るとなると、そうなっちゃうんです。
だけど教会に、聖書の教えばかりを守ろうとして、
大切な家族を理解できないってどうなんだろうって
目が開いたのだろうなあ、と私は思いました。
彼の息子は、父に気が付いたときに驚いた顔をします。
驚き、戸惑いつつも、ステージで歌うんですけど、美しい歌声なんですよ。
フレッドが本当はずっと聞きたかったんだろうなあと思うと
なんだか涙が出てしまうクライマックスでした。
自分を形作ってきた価値観や教えを
破ったり捨てたりするのは容易なことではないでしょう。
長い時間守り続けてきたものほど、大きすぎて大変なはず。
それでも、時には、本当に大切なものがなんなのか、
フラットな気持ちで考えられたら、幸せがやってくるかもね……
なんてメッセージを受け取ったような気がします。
こんな内容じゃないけど、とか言われたらどうしようかな。笑っちゃうよね。
少しわかりにくいかもしれませんが、
宗教を大切に生きている人の「勇気」の物語だと思ってみると、
胸にじーんとくるものがあるのではないでしょうか。
オランダ映画はなかなか、色味も独特で好きですねえ。
途中で余興を依頼してきた夫婦、ものすごく背が高くて、
あの辺のひとたちホントにデカいなって感心したりもできますよ。
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