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2017-09-26(Tue)

「ベイビー・ドライバー」

ベイビー・ドライバー

8月から公開中の映画。
エドガー・ライト監督作品ということでどうしても見たかったけど
近いところだと全然やってない→公開終了……
かと思いきや、じわじわ上映するところが増えてきて
ちょうどいい距離のところでちょうど公開スタートしたので劇場へ。

いやーもう、思っていた以上にファンタスティックな映画でした。
エドガー・ライトといえば映像と音のシンクロと、
並ぶ者がいないであろう疾走感!って印象でしたけれども、
今まで見た中で一番だったんじゃないかなあ。
画と音に一切無駄がなくて、目を休めるシーンは一秒たりともなかった、
しかもそれが心地良くてたまらんかった、っていうのが感想です。

主人公は「ベイビー」と呼ばれている若者。
強盗なんかをするチームの一員で、そのテクニックからドライバーを任されている。
実行犯を回収して、警察の追跡を振り切る係なんですが、
うっとりするほどの激しいカーチェイスをこれでもかってほど魅せられまして。
でも、ただただ画がいいというわけではなく、
キャラクターたちも物語もいいんです。
公式サイトには「カーチェイス版ララランド」なんて書かれてますが
割とその通りじゃないかなと思います。

幼い頃の事故で、両親を失い、聴力に問題を抱えてしまったベイビー。
やまない耳鳴りを止めてくれるのは音楽で、
常にヘッドホンにサングラス、
その態度を「仲間」にはたびたび見とがめられますが、
彼は計画を誰よりも理解し、パトカーが何台来ようと
すさまじいドライビングテクニックで振りきり、
その場の判断で乗り捨て、乗り換えて仲間を無事に逃がすんです。

しかしこのベイビー、過去にうっかりやってしまった窃盗のせいで
犯罪を取り仕切る「ドク」という男に協力させられているだけ、という立場。
本当なら悪いことはしたくない。
失った両親のかわりに自分を育ててくれた養父の世話をしながら、
彼の教えを守ろう、正しく生きようと思いつつ暮らしているんです。


ようやくこの仕事で借りを返し終わる、という頃に、
彼は昔母親が働いていたダイナーで運命の出会いを果たします。
自分の名を呼ぶように歌う彼女の名前はデボラ。
彼女のために足を洗いたい、まっとうに生きたい……。
けれど過去の実績のせいで、ドクはベイビーを離さないわけでして。


という話。
犯罪の元締め役のドク、ケヴィン・スペイシーを久々に見たんですけど
やー、やっぱ上手!すごく味わい深いキャラクターでした。
悪いやつではあるんですけど、ロマンも笑いもわかる男というか。
ベイビーをとても気に入っていたんだろうなあって最後はしみじみ。

そして、運命の仕事をする仲間たち。
他人を簡単には信用しないバッツ、
二人でいちゃつきまくるバディとダーリンも、
誰もかれも良かったです。はい。本当に。

役者もいい、キャラクターもいい、画もいい、音もいい、最後の展開もいい。
安易にただただ幸せなだけの物語ではないところもいい。
ほれぼれするような、完成度の高い作品だったなあって
本当に見て良かった、いい映画でした。大満足。

パンフレットがなかったのだけが超残念!


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2017-06-12(Mon)

「ロンドン・ロード ある殺人に関する証言」

「ロンドン・ロード ある殺人に関する証言」

2015年のイギリス映画。ミュージカル(ダンスなし)です。

イプスウィッチという町で起きた連続殺人事件。
売春婦がつぎつぎと、短期間のうちに5人も殺されて、
街のイメージはすっかりガタ落ちに。
犯人は逮捕され、ちゃんと真犯人であることがわかるんだけど、
解決とは別に街の印象をちゃんとよくしようと
街の人たちが団結してステキなロンドン・ロードを作ろうね

って頑張るというお話。
実話をもとにしたミュージカル、舞台になったものを映画化、
ということでして、
歌詞、セリフになっているのは実際に事件があって
取材を受けたひとびとが語ったものがもとになっているというリアリティ。
だけどそれだけになっちゃっているかな。

事件が起きて、町がくらーくなっちゃって、警察が来て、
容疑者が起訴され、裁判が続く中、
街の人たちは戸惑い、落ち込み、このままではイカンと立ち上がる。
淡々とそう描写されるだけで、盛り上がりがないんですよね。
ドキュメンタリーを歌ってみました
みたいな話になっちゃってて、ちょっと残念でした。
現実って確かにミュージカルみたいなドラマティックな展開ないんですけど
だったら歌わなければよかったのでは……くらいの半端さでした。
話そのものはいいんですけどね。
あと、トム・ハーディがオマケすぎて。
セリフが意味深すぎて、最後までハラハラしたんだけどなにもないという。

ミュージカル好きとしては残念かなあ。
もう一声欲しかったです。はい。

2017-05-09(Tue)

「スラムドッグ$ミリオネア」

「スラムドッグ$ミリオネア」

2008年のイギリス映画。
アカデミー賞をいくつかとっていたなあ、って印象しかないまま見たら
ものすごくドラマチックな作品でした。

舞台はインド。主人公はムンバイで育った青年のジャマール。
彼はインド版の「クイズミリオネア」に出場し、
最後の一問まで正解し続けたところで警察に捕まってしまった……
というところからスタート。

なぜクイズ番組に出場したのか、
学のない貧しい育ちの彼がどうしてクイズに正解し続けたのか?
最初に出される四択の答えが
見ているうちにだんだんわかっていく
とても面白い作りだったと思います。


ジャマールの人生はハッピーとは縁遠いもので、
母を失い、兄に裏切られ、恋する少女も同じような不幸にからめとられてしまった
波乱に満ちたものでした。

だけど、大切な少女であるところのラティカを一途に思い、
力強く生き抜いていくうちに、
それまでにたどってきた運命の糸が力強い縄になって
彼の人生を空へ引き上げる力になった……

みたいな感じなのかなあ。
クイズが進んでいくたびに、ジャマールは人生を振り返っていきます。
あの日、あの時に起きた、あの出来事。
辛いことばかりだけれど、乗り越え、耐え抜いたジャマールには
大切な経験、知識になって助けになるわけです。

インドと日本じゃ全然違いますけどね、いろんなことが。
だけどやっぱり、つらいとか、苦しい経験も
人間を育てる大事な糧だよなあって思います。

最後はとても幸せでお茶目な終わり方で
顔がふわーっと笑ってしまいました。
いやー、いい映画だった。

ただ、ミリオネアのシステムを知らないと楽しめないかも。
日本での放送もずいぶん前に終わっちゃったので
ご存じない方は仕組みくらいは調べてから見るのがよさそう。

2016-06-28(Tue)

「パレードへようこそ」

パレードへようこそ

2014年、イギリスの映画。原題は「Pride」ですね。
邦題はとっても柔らかくなっております。

舞台は1984年。イギリスで炭鉱夫たちがストライキを起こした時の物語。
炭鉱が閉鎖されようとしていて、仕事を奪うなって立ち上がるんですよ。

だけど、ストライキを起こすも成果はなかなかでない。
政府が強いんです。強い姿勢で臨む!とサッチャー首相はこぶしを振り上げている。

そこで立ち上がったのが、ロンドンで暮らすゲイやレズビアンたち。
自分たちの権利を訴えるためのパレードをした日に、
参加者の一人であるマークは、炭鉱で働く人たちのために募金活動ができないかと考える。
サッチャー首相と警官は自分たちにとっても敵で、
敵の敵は味方なんじゃない?みたいな発想で。

ところがやっぱり、偏見があるんですよ。
団体名も炭鉱夫を支援するゲイとレズビアンの会、みたいなダイレクトなものにしちゃったので
応援させてくださいと連絡しても電話をすぐに切られちゃうんです。

最初は炭鉱夫たちの組合に連絡していたんだけど、
けんもほろろの対応によっしゃと奮起。
それなら直接どこかの炭鉱町に電話してみようと。
すると受話器の先で対応したのは親切な老婦人で、
炭鉱町ディライスから代表の男がやってくる。
まさかこんな団体だったなんて……と驚く代表のダイだったけど、
(団体名をちゃんと聞き取れておらず、LGSMという略称だけ伝わっていたので)
偏見を持っていない彼はゲイバーでの歓待にもひるまず、
支援に感謝しますと挨拶してくれるんです。

そこから始まる、ディライスとロンドンのレズビアンとゲイたちの交流物語なんですが
もちろん、一筋縄ではいかなくて……。

というお話。

今よりももっともっと理解のなかった、
不況、それから宗教感や、エイズの流行の始まりなどなど
1984年はゲイのみなさんにとって厳しい時代だったんですよね。


ディライスのみなさんは最初こそイロモノを見る目でLGSMのメンバーを見ますが
交流を重ねていくうちに偏見は取れて、
それどころか彼らは信じられないくらいの規模の支援をしてくれるんです。
心ない攻撃に負けず、明るく前向きに突き進んで、
最後にはお互いにはっきりと打ち解けます。

もちろん、問題はいっぱいあるんですよ。
かつての恋人がエイズにかかってしまって、不安に陥る者もいるし、
既にエイズに罹患していて今後が心配な者もいる、
家族にゲイなんだと打ち明けられず、バレて家に監禁されちゃう子もいるし、
乱暴なやつらに殴られて入院させられたりとか、

正直な自分で生きていくことは難しいんだなって思うんだけど
それでも彼らはみんな、困難でもまっすぐに進んでいくんです。

仲間がいて、理解してくれる人がいると知るのは人生をどれだけ豊かにするだろう。
そんな思いが伝わってくるんです。

ところがやっぱり、異端を許せない人というのはどこにでもいて、
強い悪意を持ってLGSMを追い払ってしまうんです。
お前らなんか及びじゃない、出ていけ。
せっかくはぐくんできた信頼を部外者が勝手に打ち破って、
小さな町と小さな自由を求める団体は離れ離れになっちゃうんです。

それでもね。
大切な友人ができて、自分の生きる道をはっきりと知って、
愛する人の隣を歩んでいこうって決めて、
それから、受けた大きな恩に、最後はちゃんと報いようって思うんです、みんな。

次の年のゲイ・パレードには信じられないくらいたくさんの人が参加するんです。
支援に心から感謝した炭鉱夫たちがやってきて、
彼らの権利を認めようって一緒になって歩いて、それでおわり。

これ、実話なんですよね。
人のために生きるっていうのは、なかなか難しいことだと思います。
相手がどのくらい喜んでくれるかわからないし、
自分を犠牲にしてでもって、そう思えるもんじゃないですから。

でも彼らは見知らぬ誰かのために走り回って、
それに救われた人が大勢いたんです。
とてもいい話で、でも全然説教くさくなくて、悲観的でもなくて、さわやかでね。

イギリスはこういう映画よく作りますね。
リトル・ダンサーも同じ時代の話。
フル・モンティとかも不況に苦しむ中ではじける話ですね。
でも一番思い出したのはキンキー・ブーツだな。

なかなかいい映画でございました。
ゲイのみなさんもレズビアンのみなさんもステキで。
ついつい深夜まで見てしまって寝不足になりましたが、良かったです。

2016-05-18(Wed)

「おみおくりの作法」

おみおくりの作法

2013年イギリス・イタリア制作映画。
舞台はイギリス、ロンドン。泣いたよ!


主人公はロンドン市内のケニントン地区の民生委員のジョン・メイ。
44歳で独身の彼は、孤独死した人の後始末が仕事。
一人ぽっちで亡くなってしまった人の家族を探し、
遺品を整理し、丁寧に葬儀をあげる。
家族を探し出し連絡をして、
残された写真や持ち物から丁寧な弔辞を作って自ら参列までする。

そんな仕事を22年も続けてきたある日、
コストカットを理由に彼の部署はなくなってしまう。
仕事が丁寧なのはいいけれど、時間をかけすぎ。
死んだ人間に感情などないのだから、
ちゃっちゃと火葬すればいいじゃない、と上司から言われてしまう。

自分の住まいの向かいのアパート、ちょうど真向いの部屋で
ひっそりと死んでいたビリー・ストーク。
彼の家族を探し、葬儀をあげるのがジョンの最後の仕事になる。
もうクビを申し渡されたけれど、最後までちゃんとやらせてほしい。
ジョンはそう申し出て、ビリーがどんな人物だったか探っていきます。


ものすごく静かな映画でした。
優しいとか、穏やかとかではなく、とにかく静か。
ジョンの仕事ぶりも静か。

孤独に死んでしまう人というのは、みんなワケありな人物なんでしょうが
それでも、ひっそりと一人で逝ってしまった人たちに対して
ジョンはひたすらに誠実なんです。
途中、ジョンだけが参列する葬儀の様子が出てきますが、
彼の作った弔辞だけでどれだけ誠実な人物かわかると思います。

ビリーは少々暴れん坊だったようで、
彼の過去を知る人物たちはみな、語る口が重たい。
いいやつだったけどね。
優しいところもあった。でも……。

ビリーの残していたかわいい女の子の写真を手に、
ジョンは故人の足跡をたどっていきます。
そしてとうとう、写真の娘に行き着く。

父に見捨てられていたと思っていた娘は、
葬儀には参加したくないと答える。
ジョンは、「気が変わったら来て」と優しい答え。

そして、結構ショッキングなラストへ……。


なんちゅー悲しい映画なんだ!って思うんですよ。この時点で。
なんでこんな運命を用意するの?って。
で、本当の最後の最後で涙がじゃー。

だけどこの作品が訴えたかったものは、
劇中でジョンに突き付けられた強い否定に対しての「いいえ」だったのかなって。
毅然とした態度で、そんなことはありませんよと、言い放つようなラストでね。

誰しもそれぞれの人生があって、
その中で、完全な孤独なんてないんだよって、
そう言いたいのかなあと思いました。

ほんと、ちゃんと生きようって背中がしゃんとする映画でした。
みてよかった。