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2016-03-20(Sun)

「赤い靴」

「赤い靴」

1948年、イギリスの作品。
すごいな、1948年って……というのがまず出てくる一本。
アンデルセンの童話「赤い靴」を劇中のバレエの舞台として取り上げ、
芸術に生きる人間の苦悩を描いた作品、ってことでいいのかな。

わたしは「コーラスライン」がものすごく好きなんですが、
こちらはブロードウェイの舞台に立つことを夢見るダンサーたちが
バックダンサーの仕事を得るためにオーディションを受ける話。
このオーディションが少し変わっていて、踊りの技術だけではなく
これまでの人生や、ダンサー個人がどんな人間なのか
掘り下げていくという内容なんですよね。
オーディションを受けているダンサーの一人に、ダイアナという女性がいるんですが
彼女は「赤い靴を100回くらい見た」と話すんです。
大好きで、「赤い靴」を見てダンサーになろうと思ったと。
それで私も見てみたかったんですが、ようやく機会に恵まれました。


この作品は、まだ若いダンサーヴィッキーと作曲家のクラスターが、
とあるバレエ団に入るところから始まります。
バレエ団のオーナーであるレルモントフは才能のありそうな人間を集め、
これぞという人物を育てているんですが、
クラスターもヴィッキーも目をかけられ、主役に抜擢され、曲を書き、
「赤い靴」の舞台を完成させるのです。

「赤い靴」はアンデルセンの童話がもとになっていて、
ある貧しい娘がいて、自分の靴を持っていない。
それをある婦人が見て気の毒に思い、赤い靴を買ってあげるという話なんですが、
娘はその靴を気に入って、葬式にも履いていってしまうんですよね。
その場に合わないものなのに脱ごうとせず、最後には脱げなくなってしまい、
足首から一緒に切り落とされてしまう。そういう話なんです。

ヴィッキーはバレエで世に出たいと強く思っていて、
踊ることは生きることと言い切る娘さんなんですが、
彼女は赤い靴を手に入れて、それを履き続けるか、それとも脱ぐのか、
迷いに迷ってどちらも選べずにすべてを失ってしまう。そういう話でした。

バレエのシーンはとても美しく、幻想的でね。
そりゃダイアナも憧れますわ……と納得いく内容。

ヴィッキーは自分を理解し、曲を書くためのインスピレーションの源とし、
彼女の踊りをより美しく見せる音楽を作るクラスターを愛してしまいます。
クラスターも同様に、美しく才能あふれるヴィッキーを愛してしまう。

だけど、二人のプロデューサーであるレルモントフはそれを許さない。
彼は、芸術と愛は両立できないといってヴィッキーを責めます。
バレエダンサーでいるためには、ひたすらに芸の道を歩むしかないと。
結婚して、子供を産んで、家庭に収まって。そんな平凡な道はダメだと。

レルモントフの言い分も、ちょっとはわかるんだよなあ!っていうのがね。
古い時代の作品で、男女の在り方について現代と同じように語ることはできない
そういう前提があってもなお、ちょっとわかるんです。
本当に非凡な、たぐいまれな才能を持った人間は、
芸術だけに身を捧げるべきだ。
そういう生き方をしなければ、才能はみるみる失われてしまうかもしれないわけで。
特に体を使った芸術をする、女性の場合。
老化であるとか、出産であるとか、邪魔でしかないという見方もできるわけです。

ヴィッキーもそれをわかっていて、
バレエへの強い思いが心にあって、
それでもクラスターへの愛も確実にあって、
舞台をとるか、愛をとるか。
本当はね、クラスターがちょっとだけ折れたらよかったんでしょうけど。
この舞台だけならいいよと言える寛大さがあれば、結果は違っていたかもしれない。
だけど人間は嫉妬や、プライドや、意地や、苛立ちにとらわれるもので、
その結果非常にやるせない結末を迎えてしまうという。

普段、自分にはなにもない。何の才能も、確固たる愛がないと思っている人がいたら
どれだけヴィッキーが幸せに見えるだろうかとも思いました。
一人の人生の上に、あまりにも多くのものがありすぎた。
贅沢極まりない悲劇という見方もできる。

自分を通そうとしすぎて女神を失ったレルモントフとクラスター。
多くを持ちすぎ、なにを手放すか選べなかったヴィッキー。

多くを持っていれば幸せなのかというと、そうではない。
人生の妙味が詰まった作品なんじゃないでしょうか。
最後に、ヴィッキーの影を追うようにライトだけが動く舞台を、
観客はどんな気持ちで見たんでしょうね。

いろいろと考えることのできる映画でした。見てよかった。
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2016-02-26(Fri)

「ある神父の希望と絶望の7日間」

「ある神父の希望と絶望の7日間」

2014年、アイルランド/イギリス制作作品。

寒々しいアイルランドのある村にある教会に、懺悔にやってきた一人の男。
彼は幼い頃、司祭にレイプされ続けたと告白し、無関係なジェームズ神父を一週間後に殺すと予告して去っていく。
自分を傷つけた司祭は既に亡くなっており、彼ではなく、善良で罪のない司祭を殺すことに意味があるのだという。

その日から、次の日曜日まで。
さびれた村に暮らすジェームス神父の、息苦しい七日間の話です。

なぜかジャンルがコメディになっているけど、ブラックユーモアというには少し重い気が。

主人公のジェームズ神父は少し変わっていて、結婚の経験があり、娘もいる。
妻を病で亡くしてから神に仕える道を選び、神父になったという経緯らしい。
(カトリックの神父は結婚できない)

非常に重たい告白をされ、さらには殺害予告までされてしまってさすがに神父といえど動揺は隠せない。
懺悔室でされた告解は他人に漏らしてはならないものなので(それが犯罪行為の打ち明けだったとしてもダメ)、神父は悩む。
内容を少しぼかして他の司祭に相談したところ、そんなの懺悔じゃないじゃん、と警察へ相談したらどうかと言われてしまってさらに悩む。

このさびれた寒村はなぜか問題児が多いようで、夫以外の男と遊びまくる人妻とか、恋人ができないからと女性を殺しまくりたいと言い出す童貞などなど、へんてこな人が神父に絡みまくります。
この辺がたぶん、コメディになっている所以だろうし、神が軽んじられる時代になった、信仰が薄くなったなどなど、キリスト教という大きな地盤の揺らぎを表しているのだろうなあ。
神父は守秘義務があるし、どんな相手の話も聞くから、逆にへんてこな奴がいっぱい寄ってきて大変なのかもしれないとも思いましたが……。

唯一、旅行の途中で夫を失った女性だけがマトモでね。

最後は割と衝撃というか、救いのない展開で、たぶん邦題がセンスないんだと思いますが。
原題は「Calvary」で、ゴルゴダの丘、キリストが磔にされたことを意味する単語です。こっちはストンと心に落ちてくるけど、あんまりキリスト教と縁のない人が多い日本では通らないかな。仕方なくこのタイトルなのかもしれません。

思っていた以上に宗教色の強い、少し諦めの気配が濃い映画でした。
映像から漂ってくるうすら寒さは非常にいい感じだけど、元気は出ないかなw
物思いに耽りたい時には、いいかもしれません。

2016-02-13(Sat)

「トラッシュ! -この町が輝く日までー」

「トラッシュ! -この町が輝く日までー」

イギリス制作。舞台はブラジル。タイトルから受ける印象とはだいぶ違うかな。
とりあえず「!」はいらないのでは。

原題はただの「Trash」でして、いわゆるゴミ、クズ、くだらないものを指す言葉です。

主人公は14歳の少年3人組。
ビデオに撮られた彼らのメッセージが再生され、これを見ている人がいるなら、僕はもう死んでいるだろう……なんて物騒なセリフが少年の口から飛び出してくる。
一方で、一人の追われている青年の登場。彼は警察に追われ、追い詰められて、自身の財布をゴミ収集車に向けて投げ込む。

彼は拷問の末死に至り、ゴミ捨て場では大勢がなにかいいものがないか漁っている真っ最中。

これが多分、彼らの日常なんだろうというのがすぐにわかる。
ゴミの山はトラックの積んできた廃棄物で埋まっており、老若男女、大勢が山を登ってはお宝探しにいそしんでいる。

冒頭のビデオに出てきた少年、ラファエロもその一人。
ともだちのガルドと一緒にゴミ山を漁り、青年の投げ入れた財布を見つける。
中身を確認して、現金をわけあって。あとはもう捨ててしまえば?と言われるけれど、面白そうだからと手放さない。

そしてやってきた警察官たち。彼らが捜しているものが、自分の拾った財布だと気が付くラファエロ。
警察は信用できない。ましてや、見つけた者に謝礼を出すとなれば、相当に大事なもの。

二人は財布を隠そうと決めるけれど、景気よく鶏肉を買ってきたガルドのせいで目をつけられてしまう。
なんとか隠し通さなければと、ゴミの城の奥の奥に暮らすラットのもとへ二人は向かい、そして財布に隠された秘密を探り当てていく……

という話なんですが。
この少年たちの置かれた状況に、まずは圧倒されると思います。
彼らは痩せていて、汚れていて、だけど生きていくための知恵はしっかり持っていて。
それでいて、ただの少年で無力なんだけど、財布に隠されていた青年の無念を感じ取って、情報を集め、それぞれの些細な能力を使って権力者たちの悪事を突き止めていくんですけどね。

警察は子供にも全然容赦がないんです。
ゴミの山で暮らす人々は、ゴミ同然の扱いをされてしまう。
住人たちもそれを理解していて、子供たちが頼りにしている神父はちゃんと行動はするものの、これ以上は無理ってラインを引いてあきらめてしまっている。

ラファエロたちはたくましく、そのラインを越えて、警察に追われ死の危険に迫られながらも、小さな財布に潜んでいた秘密を突き止めるために走り抜けていくんです。

途中で親切な誰かとの出会いはあるけれど、どれもささやかなものでして。
もう彼らは死んでしまったんだろうと何度もあきらめられてしまう。
刑務所に面会に行ったり、聖書に隠された暗号を解いたり。

財布をゴミ収集車に投げ込んだジョゼは幸運だったのだなと最後に思いました。
あれを拾ってくれたのが、ラファエロでよかった。
ラファエロにいい友人がいてくれてよかった。
彼らに協力してくれる大人が、少しでもいてくれてよかったと。

子供は守られるものだというのは幻想で、世界中のあちこちでただただ搾取されたり、売られたり、暴力にさらされたりしているものなんだ……と改めて。
日本は平和ですよね。あの神父やボランティアの女性のように、できることならしてあげるけれど、命をかけてまではちょっと……というのが大概の大人の考え方でしょう。

それでいいんだけれど、それでもこの映画の描いた世界の裏側の現実は重たい。

最後の最後、少年たちの行きついた場所はとても美しくてね。
だけどいつまでもあのままではないんじゃないかなとか。
深刻な貧困を抱える世界と、そういう場所での権力の在り方とか、訴えるものがとても多い作品でした。

2015-12-08(Tue)

「バースディ・ガール」

「バースディ・ガール」
2002年作品。舞台はイギリスの片田舎。

銀行員として10年働き続けてきた、真面目がとりえの主人公ジョン。
出会いがないのを嘆くくらいなら、自分から探せばいいじゃんと
花嫁斡旋サイト「ロシアから愛をこめて」でロシア美女を一人調達してしまう。

やってきたのはとびきりの美女ナディア。
でも、サイトでの説明とちがって英語が話せない。なんてこった。
困惑し悩んだ挙句ロシアに送り返そうとするも、
そう告げた夜にあっさりお色気攻撃の前に全面降伏。
きれいで、時々可愛くてけなげなところも見せるナディアにすっかりゾッコンのジョン。

そしてやってきた、可愛い彼女のバースデー。

突然現れたナディアのいとこと、たまたま意気投合しただけというロシア男の二人組。
そろそろ出て行ってくれないかと言うと、一方がキレてナディアを人質に取り
現金を要求してくるという恐ろしい展開。
銀行員で、金庫のカギを預けられているので、ついつい。
銀行から金を持ち出してしまったが、実は三人はぐるで、これまでも世界中で
同じように詐欺を働いてきたらしい。


ジョンは怒り心頭、自分の将来も悲観するんだけど、
なぜか自分と一緒にナディアも置き去りにされている。
警察に突き出そうとすると、妊娠していることがわかる。
かわいそうに思って一緒に逃走。パスポートと旅券はあるから、
目立つ愛車を捨てて徒歩で空港に向かうんです。

最初は、最悪の詐欺師、犯罪者でしかなかったんだけど、
一緒に歩いているうちにナディアのいいところも見えてきて、
ジョンは最終的に彼女を許してしまう、という物語。

犯罪からずっと足を洗いたかったのであろうナディアも、
地獄の底へ叩き落したはずの相手が手を差し伸べてくれて、
この人が自分を変えてくれるっていう希望を見たのかなと思いました。

男と女の感覚の差みたいなものもよく見えたかもしれない。

恋愛と、コメディと、ちょっとのクライムサスペンスで構成されていて、
どこが突出して最高、ってことはないんだけど、
全部まとめてなんだかとっても愛おしいデキになったのではないかと思います。

でね、やっぱり美女は得だなって思わなくもないよね。

二人のやりとりはとにかく、ドラマチックじゃなくて、さりげないものばかりなんだけど
それこそが「ずっと一緒にいられるかどうか」のカギになるもんなのかなー
みたいな感想を抱きました。なんだか目が離せない一本でした。

2015-11-18(Wed)

「マシンガン・ツアー ~リトアニア強奪避航~」

「マシンガン・ツアー ~リトアニア強奪避航~」

あらすじに惹かれてみてみました。
制作はイギリス・リトアニアとあるけど、これリトアニア的にはOKなの?

主人公はイギリス人の四人組。
近衛兵のマイケルは誕生日を迎え、恋人にプロポーズしようと張り切っているのに
アホな友人3人組がどうしても来いとやかましい。
5分だけだぞ、と付き合うが、車で待っていてもちっとも帰ってこないので
様子を見に行くと銃声が。友人たちはマフィアから大金と指輪を奪っていたのだ!

ド素人のやり方ではすぐに足がついてしまって、
まずは公共の場で働いているマイケルが補足されてしまう。
恋人からは鬼電、逃げようとした先では友人たちが高飛びを目論んでいて
それに巻き込まれてしまうのだが、火山活動のせいで飛行機はみんな欠航、
もしくは近くの空港に降りてしまい、目をさますとそこはリトアニア。

言葉は通じないし、美人局だの強盗だの、ついでにイギリスからの追っ手もやってきて
四人の逃避行は大混乱、みたいな話。

物語自体はただドタバタするだけ、東欧の自虐的なネタ満載で
見ているこっちは苦笑い。
まー、くだらない映画です。いい感じに不謹慎の針を振り切っていて。
最後の最後、みんなどうなっちゃったのかなーって心配になりますけど、
暴力・エロ、バランスがちょうどいい。やり過ぎない不謹慎って、なかなか難しいと思うので。
皆さんバンバン撃たれるけど結構元気の安心仕様。

オバカ映画好きにはおすすめしたいかな。
ただ、リトアニアには絶対行かないぞって気分になるけど。