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2017-10-18(Wed)

「歌声に乗った少年」

2015年、パレスチナの作品。
実際にあった、パレスチナの歌手ムハンマド・アッサーフの物語です。


監督のインタビューがあった
のでリンク。


難民キャンプで育ちながら、大きな夢を抱き、
それを叶えた青年がおりました。
それが、この映画の主人公ムハンマド。

そこから外へ出ていくことすら難しいパレスチナのガザ地区から
命がけで飛び出し、
「アメリカン・アイドル」のアラブ版、「アラブ・アイドル」に出場し、
歌声ひとつで勝ち上がっていく……っていう、
あらすじにするとまあ簡単極まりないんです。
「ロック・ザ・カスバ!」も、「アフガン・スター」に女性が出る物語。
こっちも命がけでした。
ムハンマドも命がけですよ。生きるだけで命がけ。

ともに夢を見ていた姉を病で亡くし、
本当に、ささやかな希望すらもてない暮らしなわけです。
自分たちが望んだわけじゃない争いが常に周囲で起きていてね。
夢をかなえようったって、どうすりゃいいの、って。
日本でも失望、挫折はいくらでもあると思いますけども、
そのかわり道もたくさんあるわけで、
ガザのような場所で生きる人たちとはくらべものになりません。

ムハンマドは本当に美しい声を持っていて、
その力を信じてエジプトへ旅立ちます。
ガザからの出場者は初めて。
優勝を目指して勝ち続けていきますけれど、
その途中で緊張しすぎて倒れちゃうんですよね。

そのシーンでなんかもう、号泣ですよ。
優勝へのプレッシャーが半端なかったのは、
パレスチナで暮らす人たちの期待の大きさからなんですけど、
その光景を見ると、本当に、彼が、同胞がテレビの中で歌って、
審査員に選ばれ続ける姿だけが、唯一の希望だったんじゃないかなって思えたので。
政府も武力も、誰も解決してくれない、平和のない暮らしの中で、
自分たちの矜持、ここに生まれ、ここに生きているんだっていう心が
唯一認められた気分だったんだろうなあって思ったんですよね。


遠い遠い国の、特別な事情のあるところ、なんですよ。
日本とは本当にまるで違う、悲しい場所があるんです。
生まれた場所、時代がほんの少しズレているだけで、
おんなじ地球の上だっていうのに、
なんでこんなことになるのかなあ……と。
平和って、簡単だと思えるじゃないですか。
それぞれがちょっとずつ譲歩して、我慢して、相手を思いやれば、って。
だけどそうはならない場所もあるんですよねえ。
歴史、立地、宗教、などなど。
人々の間にある溝はたくさんあって、深さもさまざまでね。
だけどそこに、光を投げかけられるのもまた人なんだな、みたいな。

とても感情的な感想なんですけど、
世界に溢れる希望も絶望も、学べる映画だと思いました。
中東の音楽ってなじみがなくて、あんまりよくわからなかったんですが
もしかしたら番組に利用されている面もなくはないかなとも思いましたが
それでも人々の希望であろうとする彼は立派です。


にしても、最後にご本人の映像が出てきて、
役者よりも本人の方がかっこよくてビックリしましたよ。
ますますの活躍をお祈りしたいと思います。



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2016-02-18(Thu)

「薄氷の殺人」「クイーン・オブ・ベルサイユ」

「薄氷の殺人」

2014年中国制作作品。
とある地方都市で発見されたバラバラの死体。
被害者を見つけ、怪しい二人組を逮捕しようとするも、
所持品の検査を徹底しなかったばかりに同僚二人が撃たれ、
犯人たちも射殺、事件は迷宮入りに。

この事件でケガをし、一線から引いた元刑事が主人公。
5年後、警備の仕事をしている彼は再び同様の事件が起きていることをしらされる。
調査を進めているうちに、最初の事件の被害者の妻がすべての事件にかかわっていることがわかって……。

という話。

中国のさびれた地方都市が舞台なんですが、このさびれ具合がまずとても良い。
刑事たちも服装がラフすぎて、ついでに目印もなんにもないのでどれが刑事なんだかさっぱりわからず、確保した犯人たちも速攻で手錠をかけられるものの、いろいろと甘すぎて唐突な銃撃が起きたりするのもなんだかすさまじい。多分、リアルなんだと思う。

特に最初の夜の街の部分が、大友克洋の映画作品をみているような気分。
色合いといい、町の雑然とした様子といい、登場人物たちの顔立ちといい。
(これは多分大友監督のクオリティが高いのだと思うけど)

それから、5年経つシーンのつなぎ方がすごく印象的でね。
美しくて寂しくて、ユニークだなあと。
主人公の心の荒み方も含めてかな感じられるところも良い。

物語は、元は刑事として働いていたのに、自身の失敗で人生をくじかせてしまった男と、浅はかでしたたかな女の物語。
犯人が一体誰なのかというよりは、地方のさびれた町で人生をすり減らし、理不尽にぶちあたった人間の心がさびていくさまを見るものかなと。

全編にわたって不安だし、物悲しいし。
そして最後のダンスと微笑み。
真昼間にあがる花火のむなしさなどなど。
するめのように噛めば噛むほど味の感じられる一本じゃないかと思いました。


それから「クイーン・オブ・ベルサイユ

アメリカのある大富豪の夫婦が、アメリカで一番大きな屋敷を建てて引っ越しをしようとしているところからスタート。
完全なドキュメンタリーだとすぐにわかって、ちょっと血の気が引きました。

屋敷の施工主であるシーゲル夫妻は、アメリカで会員制リゾートの販売業をしており(リゾートマンションのシェア利用権を売っている会社をやっている)、資産は1800億円を超える本物の大金持ち。
引っ越し先の豪邸は、ベルサイユ宮殿をモチーフにデザインしたもので、総工費は100億円なんだそう。8000平米以上の敷地に、屋敷の中にはトイレが40か所。大階段の下には舞踏場があって、観客の入れられるテニスコートもあって、ボウリング場もあって……。
想像できないほど、笑うしかないレベルの大豪邸を建築中なわけです。

ところがこのドキュメンタリーを作っている間に、リーマンショックがやってきて、そこからの転落がもう本当にすさまじい。

もちろん、豪邸の工事はストップ。あらゆる資産が抵当に入り、1800億以上あったはずが、いつの間にかマイナス1200億円まで落ち込んでしまう。
ほんの一瞬、人生のほんの一瞬だけで、この落ち込み。

もともと住んでいた豪邸は少しずつ乱れ、こどもたちを8人抱えた夫妻の生活はじわじわと崩れていく。
新しい家に置くはずだった大量の美術品、高価な石材、大量のバッグ、服。車はなくなり、自家用ジェットを失い、夫婦の仲には亀裂が入り……。

開始早々は夫婦の二人ともが自信に満ち溢れていて、本当に華やかに暮らしているんですけども。
転落後の姿はなんというか……。
まだなにもかもを失ったわけではなくて、だけどあまりにも多く持ちすぎていた故に、消えていったものも大量にあって。

こういう人生はなかなかないでしょう。彼らは特にタイミングもよくなかったとは思うんですけども。
いや、壮絶だなあって。そのくらいしか、小市民の私からは出てこないのでした。


2016-01-22(Fri)

「西遊記 はじまりのはじまり」

西遊記 はじまりのはじまり

ずっと見たかった、チャウ・シンチー監督(少林サッカーなどを撮っている)の西遊記。
やー、素晴らしかった。
少林サッカー、カンフーハッスル、どっちも良かったんですが
それよりも完成度ガーンと上げてきたな!って印象です。

主人公は、三蔵法師になる前の玄奘。
ひよっこ妖怪ハンターで、妖怪を倒すよりも、善の心を呼び覚まして本来の姿に戻したい。
そんな優しい心があるけど、弱い、みたいな感じ。

妖怪のおどろおどろしさと軽快な中華ジョーク、ソリッドなアクションが混じって、ストーリーがテンポよく進んでいくさまが心地よい。
時々どえらい残酷表現突っ込んで来たり、モタっとした笑いを挟んできたり。

水の中に潜む妖怪を倒そうとして失敗、テカテカの豚妖怪を倒そうとするも失敗、
ではもう、強い力を持った「孫悟空」を利用するしかない……となって
女妖怪ハンターに迫られて迷惑しながらも、頑張る玄奘。
玄奘が可愛いんですよ。いいやつそうで、弱くて、でも頑張り屋で。
女妖怪ハンターも妙にかわいらしくて、
なんだかんだで狡猾な孫悟空にしてやられて、
そしてとうとう最後に悟りタイムが……みたいな。

クライマックス部分を見たら、
あーどうして実写版ドラゴンボールをこの人に撮らせなかったのか……!
って思うんじゃないでしょうか。
で、エンディングではもう、感激ですよ。
日本人としてお礼を言いたい。そんな感じの締め方。

とにかく、見せ方のセンスがいい。
CGがめちゃめちゃCGに見えるところとかあるんですけど、
そのおかげで逆に軽やかにみられるというか。
バランスが良いのだと思います。
リアルと虚構のバランスの良い見せ方がわかっていらっしゃるからこそ、
こんなにもエンターテイメントとして質が高くなっているんだろうなーって。

邦画はなぜこのレベルにたどり着かないんでしょうねえ。
最終的にはそんな疑問に行きついてしまうほど、
良い出来でした。妖怪好きは見るべき。間違いない面白さだけど
残酷表現に弱い人はちょっとお控えくださいねって感じ。


あと、「カムバック!

ニック・フロスト主演だから、イギリス映画かな。
サイモン・ペッグの映画を見ていたら必ず会っているんじゃないでしょうか。

かつて子供だった頃、妹と一緒にサルサを踊って賞を総なめにしていた少年ブルース。
ところが大切な試合の日に悪い奴らに絡まれ、バカにされて踊りをやめてしまう。

それから25年も時が流れて、普通のメタボリック会社員になっていたブルース。
ある日上司として素敵な女性が赴任してくるんだけど、
その彼女がまさかのサルサ好き。
これはもう立ち上がるしかないと、再びブルースはサルサを踊り始める。

という話。きれいにまとまっていて、おもしろかったです。
ダンス系、再び立ち上がる系の話好きな人にはおすすめしたい。

あの軽快なステップ、素晴らしいですな。
いいよね、ダンスも。踊れるようになりたいなって思います。こういうの見ると。

2016-01-12(Tue)

セガールと「チョコレートファイター」

セガール初体験ということで、
おすすめされた「沈黙の戦艦」と「暴走特急」を見てみる。

なるほど、セガール=コックってここからだったのかーとか、
ロバートの秋山がタンクトップ着てるのはセガールリスペクトかなんかなのかなとか。

元凄腕の軍人だったセガールが乗っていた戦艦が占拠されて、
こっそり隔離されていたセガールが一人で全員倒して平和平和を取り戻す話。

暴走特急は、元凄腕の軍人だったセガールが、乗っていた列車が占拠されて以下同文。

面白かったです。ハリウッドのアクションってこうじゃなきゃねって感じで。
トミー・リー・ジョーンズが若かったね。
あと、コック帽かぶるとセガール感がものすごく減るので、
あのオールバックがセガールの肝なのかなって。思いました。
セガールの目、あんまり慣れないなっていうのも思いました。


そして「チョコレート・ファイター」
タイの映画だけど、阿部寛が出てくるけど、タイ映画。
最初に表示される制作会社とかタイトルを完全に読めなかったの初めてかも。

タイで裏社会で暗躍するヤクザであるところの阿部ちゃんが、
現地マフィアのボスの女と恋に落ちてしまうところから物語は始まる。
ギャング同士のいさかいのせいで二人は別れるも、
女のおなかには子供がいて、生まれた娘は知的な障害があるものの
その分特殊な能力も持ち合わせている。
聴力が優れているのと、見た動きをすぐに自分のものにできる。
隣のムエタイ道場のお兄さんたちの動き、映画でみた動き、
いつの間にか最強のファイターとなっていた娘のゼン(禅からきてるらしい)は
病に倒れた母の治療費のために、借金回収のために戦い始める……けど!

みたいな話でした。
とにかく、主役のゼンのアクションが大変よろしい。
映像の色合いなんかもかなりいい。
話は若干単調だし、最後は本当に悲しくてね。
あと、やっぱりアジアのマフィアは刃物をむきだしで使いすぎw

それと、日本語パートだけなぜあんなに音がちいさいのか……。
あべちゃんもっと声張ってよ!って言いたくなるくらい聞き取りにくかったです。

でも面白かったなあ。パワーが溢れてて、最初に出てきたメッセージも良かったです。

2015-12-22(Tue)

「アンナと王様」

「アンナと王様」

1999年作品。主演はジョディ・フォスターとチョウ・ユンファ。
実在の英国人女性の手記をもとに作られた小説をもとにした作品で
ミュージカル化もされているんだけど(「王様と私」)、
初めて見ました。

現在はタイであるところのシャム王国の王様に、
王子の家庭教師として英国人女性(未亡人)が招かれ、
異文化、近代化のために交流するというお話。
史実とは違うところもあるようですけど、
とりあえず映画についてだけ。

とにかく、ジョディ・フォスターが愛らしいですよね。
チョウ・ユンファの王様感もとてもいい感じなんだけど、
ジョディがいいよね……。

一夫一婦制と一夫多妻制、奴隷制度や、戦争、クーデターなどなど
時代の流れが大きくうねる中で、自分たちも変わらなければと
異国人を招き入れる王様は賢く、
だけど全員が全員ついてこれるわけでもないとわかっていて、
アンナの賢さ、意見の鋭さを受け入れたり、撥ねたり、
色々です。見ていて思い出しのは「王家の紋章」で、
強いばっかりのエジプトの王に「キリストの愛」を説いたり、
生意気だがそこがいいと思わせたりと。
異文化交流の味わいが全部入っているのではないかと思います。

衣装や宮殿のつくりこみがとてもいい感じで、
映像だけでも見ごたえがありました。

いや、ジョディ・フォスターいいよね。
今はだいぶお年を召していらっしゃいますけども、
それでもまだキュートな印象で。童顔なのかな。