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2015-08-22(Sat)

「ファーナス 訣別の朝」

ファーナス」をみてみました。

アメリカンハッスルに出ていたのと同一人物とは思えない
素敵なクリスチャン・ベイルを見られます。はい。

主人公のラッセルは可哀想なやつなんです。
田舎町でほそぼそと真面目に働いているんですが、急に不幸が連続して起きるのです。
恋人とささやかに慎ましやかに暮らしていたんですが、
ある夜交通事故を起こして収監。
刑期を務めている間に、父親が死に、恋人はおっさん保安官に寝取られ、
戦争から帰ってきた弟もなんだか妙なことをしているようで……。

改めてまた慎ましやかな暮らしを再開するも、弟が地元では有名な荒くれ者に殺されてしまう
という無情な展開。



静かな映画なんです。主人公も静かな男です。
この話は、ずっと慎ましやかに暮らしをしていたある男の、
秘められていた激情についての物語だと思ったんですが、
その激情ですらも静かでね。アーティスティックだと思いました。

抑圧されていた暮らしからの解放、なんだと思います。
それまでにたくさん抱えてきた諦めが募った結果、
自分でやるしかない。やると決めたからには、最後までやる、みたいな。
弟が出来なかったことを、兄が果たしたという面もある。
ずっと自分を縛っていたすべての鎖を解いて、ラッセルは本当の人生を歩みだしたのかなあと。
彼を待っているのは、厳しいことこの上ない現実だと思うんですが、
でも、清々しい気分だったんじゃないかなって。

最後、ラッセルは弟の仇を討つんですが、その場面もとても静かでね。
そこに美学というか、彼の魂のあり方みたいなものが滲み出ているようで、
味わい深い映画だと思いました。
ものすごく面白いかと言われると、そうでもないんだけど。
こういう静かな映画って、いいものだと思います。
あと、あいかわらずウディ・ハレルソンがやべえなって感じました。
すごい存在感だよね!

ド派手なCG、わかりやすい物語、とは対極の、
一人の人間の修羅場を美しく描いた一本だと思いました。なかなか良かった。
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2015-08-19(Wed)

「ゴースト・ワールド」

ゴースト・ワールド

公式サイトが古い。よく残っていたもんだ……と妙な感心をしつつ。
2001年の作品。ソーラ・バーチ主演のものです。
もともとコミックが原作なんすね。アメリカらしからぬ、陽気さのない作品でした。

大きな感想からいうと、ものっすごくいい作品でした。
主人公の女の子イーニドは、高校を卒業したものの進路は決まらず、
それどころか美術の補習を受けなければ証書をもらえないという体たらく。
真面目に働くこと、身分のない今をまっすぐに見つめず、受け止めず、
この時期特有のイライラと妙なプライドの高さ、残酷さ、そして少しばかりの誠実さを
これでもか!というほど濃密に描き出している作品でした。

親友のレベッカと一緒にだらだら暮らし、実家を出たいから二人で暮らそうと考えるものの、
物件を見るとか、家賃のために働くこともできず、
からかうだけのために新聞に公告を出してダメ男を探し出し、
彼に絡んで執着するけれど、その人間性に惹かれてしまい、
彼に幸せをと思うけれど、いざ誰かがそばにやってきたら怒りを抱き、と。

イーニドはめちゃくちゃなんです。
思春期の女子特有のあのあやふやな感情、湧きあがる苛立ちが
容赦なく描かれていてとにかくすごい。

結局、イーニドには自分の確固たる居場所がなくて、
彼女の好きなものだけを集めた素敵な場所が欲しいのに、
そういうわけにはいかないと頭では理解していてたまには努力するんだけど、
ただただ真面目に努力するのはやたらと悔しくて、
ついつい衝動に任せてめちゃくちゃにしてしまうけれど、
それはただ一時の憂さ晴らしにしかならず、
すべての結果が良くない形でいっぺんに最後、返って来てしまう。

あとほんの少しだけ、世界が彼女に優しかったらなあと思ってしまう。
イーニドは本当に駄目な女の子なんだけどね。
でも、とても可愛い。歳をとった自分には、とても可愛い子だと思いました。
多分シーモアもそう思ったんだろうなあ。

青春の時期にひとかけらも鬱屈などしていない、
自分は真面目にやってきた!好き放題やった!という方には
あんまり響かないかもしれない。

主演のソーラ・バーチの肌の白さと、彼女のきている真っ赤な服のコントラストが
みていてとてもハラハラさせられるのも良かった。
あの赤の鋭さは、意図して選んだものなんでしょうね。
年だけは「大人」扱いされるところまで来たけれど、
彼女はある意味で既に「女」なんだけど、中身は頼りない少女そのもので、
そう思うと、あの最後のシーンはとても悲しくてね……。

あのバスは新天地へ行く物なのか、それとも、この世ではない場所に誘うものなのか。
しみじみ考えてしまった。すごくいい映画でした。みて良かった。

2015-08-17(Mon)

「ジャージー・ボーイズ」

ジャージー・ボーイズ

フォー・シーズンズの誕生と軌跡の物語をミュージカル化!
したものを映画化した作品。
フォー・シーズンズと聞いただけだとピンとこなくとも、
登場する楽曲を聞けばすぐに「ああ!」となるであろう
超有名アーティストの伝記的物語でした。監督はクリント・イーストウッド。

ドリームガールズの男性版、と考えると想像しやすいかな。
ただ、ミュージカル仕立てではなくて、普通の映画でしたけども。
(もちろん歌っているシーンは山盛り)

もともとのミュージカル版ではバンドのメンバー四人がそれぞれ語り手になって
自分達の歴史について話すという形だったようですが、
それを取り込んで、場面場面で演じている最中に任意のメンバーが
「この時はこういうことがあって、こんな風に思っていた」と語り出すという
ユニークな手法をとっている。これは結構便利なスタイルかも(説明がわかりやすい)。
ステージ上でも語り出すんだけど、ちゃんと振付をこなしながらっていうのがいい感じ。

バンドが辿って来た歴史は、過去の悪行やら、下積み時代の苦労、
いつの間にか出来ていた借金、不破、脱退、友情と家庭運営の大失敗などなど
成功の影にはいくつも失敗があって、でも本当に才能がある人は
それすらも乗り越えるのだ……みたいな。

構成についてはオーソドックスだったかなと思うけれど、わかりやすくて
すんなり入り込んでくる感じが良かった。そしてキャストの皆さんが
歌が上手いのね……。当たり前なんすけど。

去年行ったゴスペラーズのコンサートで、リーダーが歌ってた「シェリー」。
いいよね。
最後の最後、全員で歌うエンディングも良かった。

2015-08-16(Sun)

「ルパン三世」

ルパン三世

問題の実写版です。評判が今一つなのはわかっていたし、
原作を愛する人たちからしたら多分アレなんだろうなあと思いつつ、
実際に見ないで噂を信じちゃうっていうのも良くないかなと視聴してみました。
WOWOWでやってくれてありがたいよね!


全体の感想としては、とても微妙。
言う程悪くはないけど、決して良くはない。
ルパン三世を原作にしたいのならば、相応の敬意を払うべきではないのかなとだけ。

ルパン三世が大勢に愛されているのはアニメ版の面白さゆえだと思うんだけど、
一期目の結構ダーティなルパンと、二期目以降の軽快コミカルなルパンと
どっちのいいところもとって、ハリウッド大作風にしちゃおっかな~
を目論んだところどっちつかずになって中途半端に、といった印象。

怪盗ルパン一味ですから、狙っている秘宝があって、それを取りにいくんだけど、
戦闘が激しいんだよね。組織VS組織になっている。そこがまず違和感。
インターナショナルなチームを組んで、世界を狙いにいったんだろうけども
ルパン一味はなんだかんだあってあの四人で回すから楽しいと思うんだよなあ。

ルパン三世だよな、と思ってみると、お前誰なんだよってやつが何人も出てきちゃっていけない。
たとえば泥棒同士のネットワークがあって、誰かと協力関係になるとかは別にいいけど
今回だけだよっていう扱いに出来たんじゃなかろうかと思うんだよネ。

なので、ルパン三世じゃなくて、新しい怪盗一味の話にすれば良かったんじゃんと思う。
小栗旬はまあ良くて、メイサちゃんはちょっとイメージが違うしアクションがなんか
もたもたしていてカッコよくない(そこそこ出来てるのがまた惜しい)。
玉山鉄二の次元はビジュアルはいいんだけど、あんまり撃たないのが……。
そして一番格好悪いのが五右衛門。綾野剛は多分悪くない。映像のセンスが悪い。
特に車を斬るシーン。アニメだとわーいと喜べる楽しいシーンなんだけど、
そこまで割とリアルかつシリアスな画面作りをしてきたのに、
いきなりマンガみたいになっちゃうんだよね、あそこだけね。それが超中途半端。
全体的にコミカルで、最後に向かうにつれシリアスになっていくとか、
メリハリが必要だと思うんだけど、それがない。テンポも良くない。
エドガー・ライトばりのスピード感が欲しかった。あと説明が多すぎる。
最初の30分はいらない。あの30分で飽きちゃう。31分目からちょっとだけ
ルパンらしいシーンが出てきてちょっと「おっ」と思えるのに、その前にげんなり度が。


吹き替えで見てしまったせいか、何語で舞台がどこなのか混乱してしまうのも良くない。
「キック・アス」とか、「THE・レイド」とかを観てしまうと
アクションのもたつきとか、最後のレーザーをかいくぐっていくシーンの
「それもうタイムアウト済みなのになにやってんの?」感とかが耐えられないかな……。

とにかく、そこまで酷くはない。これがすべて。でも決して良くはない。
頑張ってはいる。でも、褒められもしない。半端!なので、とても残念。

昔から噂のあった、ジム・キャリーがルパンの実写化なら見たいなあ。
ルパンダイブして欲しいなと思います。センスのいい実写化、頑張ってほしいな。

2015-08-15(Sat)

「裏切りの獣たち」

裏切りの獣たち

南アフリカの作品。
危険な潜入捜査を行い、また一人悪を捕まえた警官チリと相棒のシューズ。
ところが期待していた報奨金はもらえず
(チームを無視し、独断で動いたからという理由でもらえない)
やってられるかとすっかりやさぐれてしまう。

今度は許可ももらわずに勝手に潜入捜査を始め、
悪人たちの現金輸送車襲撃計画に参加し、
それをかすめ取ってしまおうと考えているチリ。
ところが、真面目なシューズは渋い顔。
もうすぐ子供が生まれるのに、真面目にやっている自分たちは貧しいじゃないか。
チリは散々訴えて、とうとうシューズの心が動く。

そして計画が実施されようとした時、チリたちのプランにも大きな失敗が起きて……

という話。
前提として、舞台が南アフリカであるというのが大きなポイント。
日本でだって大小さまざまな犯罪が日々起きているわけですが、
南アフリカは本当に犯罪発生率が高い。
強盗事件は1日に150件以上起きると言われている。これがキャッチコピーになるほど。

そんな街で警官をやっていれば、心も荒むであろうなあ。
ちなみに、輸送車襲撃計画はかなり穴だらけ。
まず、一味の中で信頼関係が成立していない。
凶悪なボスのもとに集っているだけで、よくわかんない人物すら混じっている。
そしてチリの考えもとても甘くて、かつて潜入捜査していた場所で
一味のうちの一人と顔を合わせたことがあるって。
シューズは慎重なので、こんな計画は駄目だと散々言うんだけども、
なんだかんだ丸め込まれて(チリが心配だったんじゃないかと思うんだけどね)
参加する。かと思いきや、外で張っていたら見つかってしまう、っていうね。

襲撃計画の前に、散々怪しまれ、シューズは始末されそうになる。
ここからチリが切り抜けていく様がみどころ。
終始ハラハラしっぱなしでした……。
この荒っぽさがまた、犯罪多発地域の無常さを物語っていて、
舞台がアメリカだと全然流れが変わってくるだろうなあと思います。
整備されていない車だとかね。
現金輸送車のガードマンの切ない語りとか。

そして色々と失敗し、何人も人が命を落として、チリがみせた表情がすごい。
自分は警官なのに。なにをやっているのだろうっていう、自問。
ただほんの少しだけ、悪人どもを叩きのめしてお金を頂いてやろうという
悪魔のささやきに誘惑されてしまった結果の重大さを、
暑い暑い道路の上で思い知るわけです。

ただの洋画として見てはいけない、ものすごくやるせない物語でした。
タイトル通り、裏切りの獣たちの話。
久しぶりにじーっと画面を凝視してしまった。
素晴らしい作品でしたがバイオレンス注意(でも結構控え目)。