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2016-02-26(Fri)

「ある神父の希望と絶望の7日間」

「ある神父の希望と絶望の7日間」

2014年、アイルランド/イギリス制作作品。

寒々しいアイルランドのある村にある教会に、懺悔にやってきた一人の男。
彼は幼い頃、司祭にレイプされ続けたと告白し、無関係なジェームズ神父を一週間後に殺すと予告して去っていく。
自分を傷つけた司祭は既に亡くなっており、彼ではなく、善良で罪のない司祭を殺すことに意味があるのだという。

その日から、次の日曜日まで。
さびれた村に暮らすジェームス神父の、息苦しい七日間の話です。

なぜかジャンルがコメディになっているけど、ブラックユーモアというには少し重い気が。

主人公のジェームズ神父は少し変わっていて、結婚の経験があり、娘もいる。
妻を病で亡くしてから神に仕える道を選び、神父になったという経緯らしい。
(カトリックの神父は結婚できない)

非常に重たい告白をされ、さらには殺害予告までされてしまってさすがに神父といえど動揺は隠せない。
懺悔室でされた告解は他人に漏らしてはならないものなので(それが犯罪行為の打ち明けだったとしてもダメ)、神父は悩む。
内容を少しぼかして他の司祭に相談したところ、そんなの懺悔じゃないじゃん、と警察へ相談したらどうかと言われてしまってさらに悩む。

このさびれた寒村はなぜか問題児が多いようで、夫以外の男と遊びまくる人妻とか、恋人ができないからと女性を殺しまくりたいと言い出す童貞などなど、へんてこな人が神父に絡みまくります。
この辺がたぶん、コメディになっている所以だろうし、神が軽んじられる時代になった、信仰が薄くなったなどなど、キリスト教という大きな地盤の揺らぎを表しているのだろうなあ。
神父は守秘義務があるし、どんな相手の話も聞くから、逆にへんてこな奴がいっぱい寄ってきて大変なのかもしれないとも思いましたが……。

唯一、旅行の途中で夫を失った女性だけがマトモでね。

最後は割と衝撃というか、救いのない展開で、たぶん邦題がセンスないんだと思いますが。
原題は「Calvary」で、ゴルゴダの丘、キリストが磔にされたことを意味する単語です。こっちはストンと心に落ちてくるけど、あんまりキリスト教と縁のない人が多い日本では通らないかな。仕方なくこのタイトルなのかもしれません。

思っていた以上に宗教色の強い、少し諦めの気配が濃い映画でした。
映像から漂ってくるうすら寒さは非常にいい感じだけど、元気は出ないかなw
物思いに耽りたい時には、いいかもしれません。
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2016-02-25(Thu)

「サイモン・バーチ」「ワールド・オブ・ライズ」

「サイモン・バーチ」

1998年アメリカ作品。
ジム・キャリーが出てると思ってみたら、ジムの出番はほぼナシでした。

小さな小さな体で生まれた少年と、父のいないジョーの友情物語。
サイモンの病名は明かされませんが、生まれた時から体が小さく、
合併症も予想されるために長くは生きられないだろうと思われていた。
ところが元気にすくすくと、ほかの子供よりは小さく育ち、
外見も普通とはいかなかったため両親からは疎まれながら生きております。
一方、友人のジョーは私生児で、それが理由でいじめられている。
ジョーは母親は明るく朗らかな優しい女性で、ジョーとサイモンを優しく包み込み、愛情いっぱいに育てているのですが……。

ジョーのお母さんが突然なくなり、理由も理由なので二人の少年の心に大きく影を落とします。
サイモンは体は小さいものの非常に賢く、機転の利く少年で、悩み苦しむジョーの救いにならんと頑張り、最後はひとのため、自分よりも幼い者のために身を投げ出すっていう話なんですが。

血のつながりというのは、強いきずなでありながら、時には冷たい鎖にもなります。
思春期にさしかかれば猶更。
病気はとても不幸で、外見にも影響が出るとなればそれは一層重たい足かせになるんですけどね。
サイモンがその冷たくて重たいすべてをものともせずに生きていて、それがジョーにとって素晴らしい福音になる。そういう物語だったと思います。
本当の友情に出会えるのは、一生で一番素晴らしいことなんじゃないでしょうか。

サイモンがいてくれたから、最後のささやかな幸せがやってくるんだよね。
人は弱いし、とても強くもなれる。見せ方は結構ベタな作りですが、ストレートに教えてくれるいい映画だったと思いました。


ワールド・オブ・ライズ

リドリー・スコット監督、レオナルド・ディカプリオ主演作品。
鉄板のタッグっすね!2008年、ハリウッド作品です。原作は小説。
原題は「Body of Lies」で、直訳すると「嘘の量」になります。
たしかに嘘だらけのだましあいだったな……。

主人公はCIAの諜報員フェリスで、世界中を飛び回ってはテロ組織の諜報活動をしている。
イスラム系のテロ組織の首謀者を見つけ、彼らをせん滅させるために飛び回っているんだけど、
詳しく書くと文字数が大変なことになるので割愛。

諜報活動と文字でかけばたった四文字のことが、これ以上ないくらい過酷なんだよね。
現地にいって、情報を提供してくれる誰かを探し、信頼するに足るか見極め、協力を取り付け、相手に見つからないように潜り、戦う。
いかに高次元のバックアップがあったとしても、なかなかうまくいかないのです。
だから世界は平和にならない。

仕事先で出会った美しい看護師と、協力を取り付けた大物と、裏切ってくる後方支援のラッセル・クロウ。もう、太っちゃって!ってな感じ。
世界のあらゆる場所は、この映画のようにピンポイントで監視できちゃうんでしょうねえ。
いつ撃たれて命を落とすかわからない状況の現地捜査員に指示する上司が、子供の運動会に参加している真っ最中だったり。なんとも無常の漂う生臭さがありました。

最後はあやうく拷問されて死ぬとこだったけど。
だましだまされ、ギリなんとかなります。最後ほっとしちゃった。

テロ組織のでっちあげなど、本当にぎりぎりのところで戦っているんだなあとか、
平和な場所で映画楽しんでる自分がもうしわけなくなる一本でした。

リアルに想像すると、エンタメとしては楽しめなくなるね。こういうのは。そんな感じ。

2016-02-24(Wed)

「セッション」

セッション

アカデミー賞とってて、なんだかすごそうだなということだけは知っていた、音楽家の魂のぶつかり合いムービー。
2014年、アメリカ作品。

主人公のアンドリューはドラム奏者を目指して名門、シェイファー音楽学院へ進学。
すこしばかり不器用で孤独な彼がレッスンをしていると、名指導者であるフィッチャーがやってきてアンドリューに声をかける。

そこから始まる、アンドリューとフィッチャーのぶつかり合いです。それがこの映画のすべて。
だけどそのぶつかり合いがとにかく苛烈。激しくて苦しくて、たまらん映画でした。

フィッチャーのような指導者は日本にもよくいるというか、日本に多いタイプなんじゃないかなと思います。本物かどうかはおいておいて、ああいうちくちくと刺すような指導者は多いのではないかと。だからたとえば、体育会系の部活で苦しんだことがある人には少し苦しい映画かもしれない。

フィッチャーのやり方は、悔しさや負けん気を刺激するもので、それももう、ほんとに半端なくとがったむき身のナイフのようなするどさなんです。
椅子を投げられ、大勢の前でなじられ、正解を言っても、逃げても、正直にわからないと答えてもとにかく全コースが罵倒の嵐。そのかわり、ちゃんとやれた時には受け入れられる。
麻薬のようなやり方で奏者を操り、焚き付け、ついてこられたものだけを選ぶ。そんなやり方をする指導者に、すべてを捨てる覚悟でくらいついていくけれど……。
みたいな。


最後は本当に胸がぎゅーっと、絞られるような苦しさがありました。
事故にあっても舞台に立とうとしたアンドリュー。
結果お互いに学院から追放されて、再び出会って、これ以上ないくらいの意地悪なステージへ。

だけどそれでもおれなかったアンドリューと、それに満足したフレッチャー。
二人はとうとう、最高の舞台へ。


このやり方は大勢に拒否されるだろうし、今の日本だったらダメ、絶対なんだと思います。
だから拒否反応が出るのは当然。だけどこの激しすぎる指導だけが生み出せるものもたぶん、確実にあると思うんだよなあ。

憎まれる覚悟と、絶対に満足させてやるんだという強い思い。
ものすごく研ぎ澄まされた映画でした。
見ていて苦しくなるけれど、最後は脱力しちゃうんですけど。
それでも見てよかったと思える一本でした。すごいパワーだった。

2016-02-23(Tue)

「アイズ ワイド シャット」

「アイズ ワイド シャット」

ちょっと長めの2時間半で、寝かせておいた一本。
1999年、スタンリー・キューブリック監督の最後の作品。
トム・クルーズとニコール・キッドマンがまだリアル夫婦だったころのもの。

あらすじとか内容については全然知らないままみたんですが、ズシーンと重たい映画でした。
序盤の物語の進み方のゆっくりさもあって、雰囲気の重さは別格じゃないかな。

ニューヨークで医師をしているビルと、その妻アリス(美術館勤務だったが潰れて今は求職中)。
7歳の娘のいる、結婚9年目の2人は互いに愛情を持ちつつも倦怠期に突入中。
ってな感じなんです。パーティに出かけて女の子に声をかけられたり、知らんおっさんにダンスに誘われたりすることにほのかにときめきつつも、互いを裏切るのはダメ。
誠実でいよう、一途でいようと思ってなのか、マリファナを使って生活に刺激を与えてみたりしている二人なんですが、ほんの些細な妻の告白がきっかけでぐらっと大きく揺らいでしまう。

話の内容としては、これだけ、なのだと思います。
妻の妄想の告白にグラグラ揺れて、夫であるビルは町をさまよい、娼婦に声をかけられて引っかかり、とうとう内緒の仮面乱交パーティに行き着いてしまう。

夜中に知らされた一人の患者の死から、現実と妄想がまじりあって崩れていくような、そんな感覚に包まれていく。
ビルはふらふらとさまよい、妻を裏切りそうになり、ぎりぎりで救われつつ、怪しげな連中に絡まれ、悲劇にもあうけれど、最後は平和な日常に戻るんだよね。結果としてはそういう話なんだけども。

人生っていろいろとうまくいかないことが多いけれど、その原因は深くてどうしようもなかったり、浅すぎて逆にどうしようもなかったり、つまらないことにいつまでもこだわってモヤモヤし続けてしまったり、そういう繰り返しだと思うんですけど、そういうことなのかなーって思いました。

この映画のテーマはなんなのかなっていうのを考え出すと、なんだか深いような、なんでもなかったような。最後はあんな締め方だし、ビルはフラフラしながらもなんだかんだでギリ踏みとどまっているし……。って考えちゃうんだけど、現実って案外シンプルなもんですよね。本当はね。正直に、素直に、本能に従うべき時もありますよね、みたいな。

そういう人生そのものを一本のえいがにしちゃったよ、的な感じなのかなと思いました。
全編、映像から漂ってくる緊張感が半端ないので無駄にハラハラしちゃうんだけど、それがなんというか、つまんないことで悩んで一人で悶々といているときの感覚に似ているというか。

だからシンプルに、物語だけをじっと追っていくとなんにも響かない可能性があるんじゃないかしら、なんて思いました。
こういうのを見てどう解釈するんだって悩んでいるひねくれ者の観客を、監督は笑っているんじゃないかって思ってしまったり。
そんな気分になる映画でした。不思議。

2016-02-18(Thu)

「薄氷の殺人」「クイーン・オブ・ベルサイユ」

「薄氷の殺人」

2014年中国制作作品。
とある地方都市で発見されたバラバラの死体。
被害者を見つけ、怪しい二人組を逮捕しようとするも、
所持品の検査を徹底しなかったばかりに同僚二人が撃たれ、
犯人たちも射殺、事件は迷宮入りに。

この事件でケガをし、一線から引いた元刑事が主人公。
5年後、警備の仕事をしている彼は再び同様の事件が起きていることをしらされる。
調査を進めているうちに、最初の事件の被害者の妻がすべての事件にかかわっていることがわかって……。

という話。

中国のさびれた地方都市が舞台なんですが、このさびれ具合がまずとても良い。
刑事たちも服装がラフすぎて、ついでに目印もなんにもないのでどれが刑事なんだかさっぱりわからず、確保した犯人たちも速攻で手錠をかけられるものの、いろいろと甘すぎて唐突な銃撃が起きたりするのもなんだかすさまじい。多分、リアルなんだと思う。

特に最初の夜の街の部分が、大友克洋の映画作品をみているような気分。
色合いといい、町の雑然とした様子といい、登場人物たちの顔立ちといい。
(これは多分大友監督のクオリティが高いのだと思うけど)

それから、5年経つシーンのつなぎ方がすごく印象的でね。
美しくて寂しくて、ユニークだなあと。
主人公の心の荒み方も含めてかな感じられるところも良い。

物語は、元は刑事として働いていたのに、自身の失敗で人生をくじかせてしまった男と、浅はかでしたたかな女の物語。
犯人が一体誰なのかというよりは、地方のさびれた町で人生をすり減らし、理不尽にぶちあたった人間の心がさびていくさまを見るものかなと。

全編にわたって不安だし、物悲しいし。
そして最後のダンスと微笑み。
真昼間にあがる花火のむなしさなどなど。
するめのように噛めば噛むほど味の感じられる一本じゃないかと思いました。


それから「クイーン・オブ・ベルサイユ

アメリカのある大富豪の夫婦が、アメリカで一番大きな屋敷を建てて引っ越しをしようとしているところからスタート。
完全なドキュメンタリーだとすぐにわかって、ちょっと血の気が引きました。

屋敷の施工主であるシーゲル夫妻は、アメリカで会員制リゾートの販売業をしており(リゾートマンションのシェア利用権を売っている会社をやっている)、資産は1800億円を超える本物の大金持ち。
引っ越し先の豪邸は、ベルサイユ宮殿をモチーフにデザインしたもので、総工費は100億円なんだそう。8000平米以上の敷地に、屋敷の中にはトイレが40か所。大階段の下には舞踏場があって、観客の入れられるテニスコートもあって、ボウリング場もあって……。
想像できないほど、笑うしかないレベルの大豪邸を建築中なわけです。

ところがこのドキュメンタリーを作っている間に、リーマンショックがやってきて、そこからの転落がもう本当にすさまじい。

もちろん、豪邸の工事はストップ。あらゆる資産が抵当に入り、1800億以上あったはずが、いつの間にかマイナス1200億円まで落ち込んでしまう。
ほんの一瞬、人生のほんの一瞬だけで、この落ち込み。

もともと住んでいた豪邸は少しずつ乱れ、こどもたちを8人抱えた夫妻の生活はじわじわと崩れていく。
新しい家に置くはずだった大量の美術品、高価な石材、大量のバッグ、服。車はなくなり、自家用ジェットを失い、夫婦の仲には亀裂が入り……。

開始早々は夫婦の二人ともが自信に満ち溢れていて、本当に華やかに暮らしているんですけども。
転落後の姿はなんというか……。
まだなにもかもを失ったわけではなくて、だけどあまりにも多く持ちすぎていた故に、消えていったものも大量にあって。

こういう人生はなかなかないでしょう。彼らは特にタイミングもよくなかったとは思うんですけども。
いや、壮絶だなあって。そのくらいしか、小市民の私からは出てこないのでした。