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2016-02-24(Wed)

「セッション」

セッション

アカデミー賞とってて、なんだかすごそうだなということだけは知っていた、音楽家の魂のぶつかり合いムービー。
2014年、アメリカ作品。

主人公のアンドリューはドラム奏者を目指して名門、シェイファー音楽学院へ進学。
すこしばかり不器用で孤独な彼がレッスンをしていると、名指導者であるフィッチャーがやってきてアンドリューに声をかける。

そこから始まる、アンドリューとフィッチャーのぶつかり合いです。それがこの映画のすべて。
だけどそのぶつかり合いがとにかく苛烈。激しくて苦しくて、たまらん映画でした。

フィッチャーのような指導者は日本にもよくいるというか、日本に多いタイプなんじゃないかなと思います。本物かどうかはおいておいて、ああいうちくちくと刺すような指導者は多いのではないかと。だからたとえば、体育会系の部活で苦しんだことがある人には少し苦しい映画かもしれない。

フィッチャーのやり方は、悔しさや負けん気を刺激するもので、それももう、ほんとに半端なくとがったむき身のナイフのようなするどさなんです。
椅子を投げられ、大勢の前でなじられ、正解を言っても、逃げても、正直にわからないと答えてもとにかく全コースが罵倒の嵐。そのかわり、ちゃんとやれた時には受け入れられる。
麻薬のようなやり方で奏者を操り、焚き付け、ついてこられたものだけを選ぶ。そんなやり方をする指導者に、すべてを捨てる覚悟でくらいついていくけれど……。
みたいな。


最後は本当に胸がぎゅーっと、絞られるような苦しさがありました。
事故にあっても舞台に立とうとしたアンドリュー。
結果お互いに学院から追放されて、再び出会って、これ以上ないくらいの意地悪なステージへ。

だけどそれでもおれなかったアンドリューと、それに満足したフレッチャー。
二人はとうとう、最高の舞台へ。


このやり方は大勢に拒否されるだろうし、今の日本だったらダメ、絶対なんだと思います。
だから拒否反応が出るのは当然。だけどこの激しすぎる指導だけが生み出せるものもたぶん、確実にあると思うんだよなあ。

憎まれる覚悟と、絶対に満足させてやるんだという強い思い。
ものすごく研ぎ澄まされた映画でした。
見ていて苦しくなるけれど、最後は脱力しちゃうんですけど。
それでも見てよかったと思える一本でした。すごいパワーだった。
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2016-02-23(Tue)

「アイズ ワイド シャット」

「アイズ ワイド シャット」

ちょっと長めの2時間半で、寝かせておいた一本。
1999年、スタンリー・キューブリック監督の最後の作品。
トム・クルーズとニコール・キッドマンがまだリアル夫婦だったころのもの。

あらすじとか内容については全然知らないままみたんですが、ズシーンと重たい映画でした。
序盤の物語の進み方のゆっくりさもあって、雰囲気の重さは別格じゃないかな。

ニューヨークで医師をしているビルと、その妻アリス(美術館勤務だったが潰れて今は求職中)。
7歳の娘のいる、結婚9年目の2人は互いに愛情を持ちつつも倦怠期に突入中。
ってな感じなんです。パーティに出かけて女の子に声をかけられたり、知らんおっさんにダンスに誘われたりすることにほのかにときめきつつも、互いを裏切るのはダメ。
誠実でいよう、一途でいようと思ってなのか、マリファナを使って生活に刺激を与えてみたりしている二人なんですが、ほんの些細な妻の告白がきっかけでぐらっと大きく揺らいでしまう。

話の内容としては、これだけ、なのだと思います。
妻の妄想の告白にグラグラ揺れて、夫であるビルは町をさまよい、娼婦に声をかけられて引っかかり、とうとう内緒の仮面乱交パーティに行き着いてしまう。

夜中に知らされた一人の患者の死から、現実と妄想がまじりあって崩れていくような、そんな感覚に包まれていく。
ビルはふらふらとさまよい、妻を裏切りそうになり、ぎりぎりで救われつつ、怪しげな連中に絡まれ、悲劇にもあうけれど、最後は平和な日常に戻るんだよね。結果としてはそういう話なんだけども。

人生っていろいろとうまくいかないことが多いけれど、その原因は深くてどうしようもなかったり、浅すぎて逆にどうしようもなかったり、つまらないことにいつまでもこだわってモヤモヤし続けてしまったり、そういう繰り返しだと思うんですけど、そういうことなのかなーって思いました。

この映画のテーマはなんなのかなっていうのを考え出すと、なんだか深いような、なんでもなかったような。最後はあんな締め方だし、ビルはフラフラしながらもなんだかんだでギリ踏みとどまっているし……。って考えちゃうんだけど、現実って案外シンプルなもんですよね。本当はね。正直に、素直に、本能に従うべき時もありますよね、みたいな。

そういう人生そのものを一本のえいがにしちゃったよ、的な感じなのかなと思いました。
全編、映像から漂ってくる緊張感が半端ないので無駄にハラハラしちゃうんだけど、それがなんというか、つまんないことで悩んで一人で悶々といているときの感覚に似ているというか。

だからシンプルに、物語だけをじっと追っていくとなんにも響かない可能性があるんじゃないかしら、なんて思いました。
こういうのを見てどう解釈するんだって悩んでいるひねくれ者の観客を、監督は笑っているんじゃないかって思ってしまったり。
そんな気分になる映画でした。不思議。

2016-02-18(Thu)

「薄氷の殺人」「クイーン・オブ・ベルサイユ」

「薄氷の殺人」

2014年中国制作作品。
とある地方都市で発見されたバラバラの死体。
被害者を見つけ、怪しい二人組を逮捕しようとするも、
所持品の検査を徹底しなかったばかりに同僚二人が撃たれ、
犯人たちも射殺、事件は迷宮入りに。

この事件でケガをし、一線から引いた元刑事が主人公。
5年後、警備の仕事をしている彼は再び同様の事件が起きていることをしらされる。
調査を進めているうちに、最初の事件の被害者の妻がすべての事件にかかわっていることがわかって……。

という話。

中国のさびれた地方都市が舞台なんですが、このさびれ具合がまずとても良い。
刑事たちも服装がラフすぎて、ついでに目印もなんにもないのでどれが刑事なんだかさっぱりわからず、確保した犯人たちも速攻で手錠をかけられるものの、いろいろと甘すぎて唐突な銃撃が起きたりするのもなんだかすさまじい。多分、リアルなんだと思う。

特に最初の夜の街の部分が、大友克洋の映画作品をみているような気分。
色合いといい、町の雑然とした様子といい、登場人物たちの顔立ちといい。
(これは多分大友監督のクオリティが高いのだと思うけど)

それから、5年経つシーンのつなぎ方がすごく印象的でね。
美しくて寂しくて、ユニークだなあと。
主人公の心の荒み方も含めてかな感じられるところも良い。

物語は、元は刑事として働いていたのに、自身の失敗で人生をくじかせてしまった男と、浅はかでしたたかな女の物語。
犯人が一体誰なのかというよりは、地方のさびれた町で人生をすり減らし、理不尽にぶちあたった人間の心がさびていくさまを見るものかなと。

全編にわたって不安だし、物悲しいし。
そして最後のダンスと微笑み。
真昼間にあがる花火のむなしさなどなど。
するめのように噛めば噛むほど味の感じられる一本じゃないかと思いました。


それから「クイーン・オブ・ベルサイユ

アメリカのある大富豪の夫婦が、アメリカで一番大きな屋敷を建てて引っ越しをしようとしているところからスタート。
完全なドキュメンタリーだとすぐにわかって、ちょっと血の気が引きました。

屋敷の施工主であるシーゲル夫妻は、アメリカで会員制リゾートの販売業をしており(リゾートマンションのシェア利用権を売っている会社をやっている)、資産は1800億円を超える本物の大金持ち。
引っ越し先の豪邸は、ベルサイユ宮殿をモチーフにデザインしたもので、総工費は100億円なんだそう。8000平米以上の敷地に、屋敷の中にはトイレが40か所。大階段の下には舞踏場があって、観客の入れられるテニスコートもあって、ボウリング場もあって……。
想像できないほど、笑うしかないレベルの大豪邸を建築中なわけです。

ところがこのドキュメンタリーを作っている間に、リーマンショックがやってきて、そこからの転落がもう本当にすさまじい。

もちろん、豪邸の工事はストップ。あらゆる資産が抵当に入り、1800億以上あったはずが、いつの間にかマイナス1200億円まで落ち込んでしまう。
ほんの一瞬、人生のほんの一瞬だけで、この落ち込み。

もともと住んでいた豪邸は少しずつ乱れ、こどもたちを8人抱えた夫妻の生活はじわじわと崩れていく。
新しい家に置くはずだった大量の美術品、高価な石材、大量のバッグ、服。車はなくなり、自家用ジェットを失い、夫婦の仲には亀裂が入り……。

開始早々は夫婦の二人ともが自信に満ち溢れていて、本当に華やかに暮らしているんですけども。
転落後の姿はなんというか……。
まだなにもかもを失ったわけではなくて、だけどあまりにも多く持ちすぎていた故に、消えていったものも大量にあって。

こういう人生はなかなかないでしょう。彼らは特にタイミングもよくなかったとは思うんですけども。
いや、壮絶だなあって。そのくらいしか、小市民の私からは出てこないのでした。


2016-02-13(Sat)

「トラッシュ! -この町が輝く日までー」

「トラッシュ! -この町が輝く日までー」

イギリス制作。舞台はブラジル。タイトルから受ける印象とはだいぶ違うかな。
とりあえず「!」はいらないのでは。

原題はただの「Trash」でして、いわゆるゴミ、クズ、くだらないものを指す言葉です。

主人公は14歳の少年3人組。
ビデオに撮られた彼らのメッセージが再生され、これを見ている人がいるなら、僕はもう死んでいるだろう……なんて物騒なセリフが少年の口から飛び出してくる。
一方で、一人の追われている青年の登場。彼は警察に追われ、追い詰められて、自身の財布をゴミ収集車に向けて投げ込む。

彼は拷問の末死に至り、ゴミ捨て場では大勢がなにかいいものがないか漁っている真っ最中。

これが多分、彼らの日常なんだろうというのがすぐにわかる。
ゴミの山はトラックの積んできた廃棄物で埋まっており、老若男女、大勢が山を登ってはお宝探しにいそしんでいる。

冒頭のビデオに出てきた少年、ラファエロもその一人。
ともだちのガルドと一緒にゴミ山を漁り、青年の投げ入れた財布を見つける。
中身を確認して、現金をわけあって。あとはもう捨ててしまえば?と言われるけれど、面白そうだからと手放さない。

そしてやってきた警察官たち。彼らが捜しているものが、自分の拾った財布だと気が付くラファエロ。
警察は信用できない。ましてや、見つけた者に謝礼を出すとなれば、相当に大事なもの。

二人は財布を隠そうと決めるけれど、景気よく鶏肉を買ってきたガルドのせいで目をつけられてしまう。
なんとか隠し通さなければと、ゴミの城の奥の奥に暮らすラットのもとへ二人は向かい、そして財布に隠された秘密を探り当てていく……

という話なんですが。
この少年たちの置かれた状況に、まずは圧倒されると思います。
彼らは痩せていて、汚れていて、だけど生きていくための知恵はしっかり持っていて。
それでいて、ただの少年で無力なんだけど、財布に隠されていた青年の無念を感じ取って、情報を集め、それぞれの些細な能力を使って権力者たちの悪事を突き止めていくんですけどね。

警察は子供にも全然容赦がないんです。
ゴミの山で暮らす人々は、ゴミ同然の扱いをされてしまう。
住人たちもそれを理解していて、子供たちが頼りにしている神父はちゃんと行動はするものの、これ以上は無理ってラインを引いてあきらめてしまっている。

ラファエロたちはたくましく、そのラインを越えて、警察に追われ死の危険に迫られながらも、小さな財布に潜んでいた秘密を突き止めるために走り抜けていくんです。

途中で親切な誰かとの出会いはあるけれど、どれもささやかなものでして。
もう彼らは死んでしまったんだろうと何度もあきらめられてしまう。
刑務所に面会に行ったり、聖書に隠された暗号を解いたり。

財布をゴミ収集車に投げ込んだジョゼは幸運だったのだなと最後に思いました。
あれを拾ってくれたのが、ラファエロでよかった。
ラファエロにいい友人がいてくれてよかった。
彼らに協力してくれる大人が、少しでもいてくれてよかったと。

子供は守られるものだというのは幻想で、世界中のあちこちでただただ搾取されたり、売られたり、暴力にさらされたりしているものなんだ……と改めて。
日本は平和ですよね。あの神父やボランティアの女性のように、できることならしてあげるけれど、命をかけてまではちょっと……というのが大概の大人の考え方でしょう。

それでいいんだけれど、それでもこの映画の描いた世界の裏側の現実は重たい。

最後の最後、少年たちの行きついた場所はとても美しくてね。
だけどいつまでもあのままではないんじゃないかなとか。
深刻な貧困を抱える世界と、そういう場所での権力の在り方とか、訴えるものがとても多い作品でした。

2016-02-12(Fri)

「マキシマム・ブラッド」

マキシマム・ブラッド

2014年カナダ制作。主演はジャン=クロード・ヴァン・ダム。
いやー……なんだかいいものを見たなーって気分です。
先に大きな感想を書いておきたい気分になる一本でした。


原題は「POUND OF FLESH」で、「ひどい要求」という意味。
まったくもってその通りですねってタイトルでして。

舞台はフィリピンの首都マニラ。
主人公のディーコンが目を覚ますと、なぜだか氷を張った風呂の中にいた。
真っ赤にそまったバスタブとベッド。部屋に置かれた薬と大金、手紙などなど。
これはなにごとかと思いきや、背中には大きな傷が。

町で男に暴力を振るわれていた女性を助け、ベッドイン……
からの記憶をたどり、鏡を見てビックリ。
なんと腎臓が一個とられちゃってる!

実はこの腎臓、移植しなければもう余命いくばくもない姪っ子に譲る予定だったもの。
姪っ子の父親である弟のジョージと一緒に、自分の腎臓を勝手にとっていった誰かを探しに夜の街に飛び込んでいく……という話です。

アクション!って話じゃあないんだよね。
主人公のディーコンは強いし、敵は手段を選ばない連中だし、死人もぞろぞろ出るんだけど。

いきなり腎臓とられているという理由が明かされていくにつれ、なるほどそういう話だったのか……と。

ディーコンとジョージの兄弟の距離感は、かつて同じ女性を愛したから。
姪のドナーになれた理由や、兄弟二人の信念の差など、
アクションもいいんだけどね!
ディーコンは腎臓とられたてホヤホヤの体で、ぜえぜえいいながら頑張るのですが、そのぜえぜえも最後にきれいに昇華されており、ああ、こういう兄弟間の確執や考えの違い、愛した女性への思い、贖罪と許し……がメインでした。

最後の展開がね、ものすごく無情なんです。タイトル通りなんです。
娘のためにって、信念を曲げた弟ジョージと。
最後の最後の一線だけは守ったディーコンと。

漢の世界、って感じで。いいものみたなーって気分です。

ど派手ではないんですけども。
アクションをみたいんだよ!って人には多分物足りないと思いますが、ナイスミドル作品として捉えればかなりのいい作品ではないでしょうか。

ラストシーンも美しくて良かったな。ああ、そうやって並べてあげるのな……って。
いい作品でございました。