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2017-01-17(Tue)

「ハッピーエンドの選び方」

ハッピーエンドの選び方

2015年イスラエルの映画。

いやー公式サイトの明るい作りは一体なんなんだろう。
煽り文句もだけど、こういう映画ではありません。
正直言って、デッドマン・ウォーキング以来の重たさですよ。
邦題も詐欺レベルかと思います。
確かに、自分の死に方くらい自分で選びたいと思うのは自然なことですし
それが老年、長く生きたあとならなおさら。
もう完治したところで元気に生きていけるはずがない、
認知症になるかもしれないという恐怖が迫りくる、
友人たちが少しずつ違うひとになっていく姿を目の当たりにする、
などなど、長く生きた後に起きる出来事は一種のホラーみたいなもので、
いわゆる「尊厳死」を望むのは当たり前の心理だと思うんです。

これはそういう映画なんです。
年老いた友人が願うことはただひとつ。
自分が壊れてしまう前に、機械に繋がれてただ生かされている状況になる前に
幸せを抱いたまま死にたい。
それを、主人公は叶えてしまい、それが周囲に知れ渡って、
主人公たちは何人もの友人を天国へ帰していくんですが、
それが自分の妻相手となると……
そして仲間の一人が実は金をとっていたと判明し……

とまあ、人間の悲しみ、葛藤、苦しみが存分に詰め込まれた映画なんです。
本当に若い人は見ない方がいいし、
年老いた人にも見せたくはない。
見るべきは、30~50代くらいの、まだ終わりには少し遠いくらいの人かな。

老いの訪れとはこういうものだとここまで容赦なく描くかなあと。
イスラエルの言葉はあまり聞いたことのない響きですし、
映像の色合いもひたすらに暗いです。
だからポスター、公式サイトの明るさがものすごくむなしく見えるという。

残される側からすれば、なんにしても自殺なわけですから、
もう少し一緒にいたかったと思われている場合は
すごくつらい展開だなあと思ったり。
しかし病を患っていたり、痛みがあったりする人には
生き続けることそのものが辛いわけでして、
人間とはなぜこんな仕組みの中で生きているのだろうか
なんて考えてしまう映画です。

安楽死、尊厳死というものはあっていい、って思っていたんですけどね。
無駄な延命なんていらない、と考える人は増えていると思うんですけど、
それでも最後、娘へのメッセージビデオを撮影しているシーンを見て、
残される側の辛さも相当だなって感じてしまって……。

こう考えられるのは、とてもリアルな物語だったからでしょう。
こんな作品に出演された俳優さんたち、すごいです。ほんと。
胸に刺さる映画でした。
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2017-01-11(Wed)

「オデッセイ」

オデッセイ
2015年、ハリウッド映画。

とうとう見ましたよ、映画館に行きたかったけど行けなかった火星残酷物語!
リドリー・スコット監督、マット・デイモン主演。
ここんとこみていなかった超メジャー級エンタテイメント作品でした。

主人公のマーク・ワトニーは植物学者で、
火星の調査チームの一員をしてただいま火星で作業中。
ところが作業中に大きな嵐が来てしまい、
マークは一人吹っ飛ばされてしまう。
宇宙服が破損したとアナウンスが流れ、
視界が奪われた他のクルーたちはやむなくマーク捜索を断念。
計画を途中で中断させ、地球へと戻っていきます。

ところがマークの宇宙服は穴が開いていたものの、
破片がうまいこと刺さった上、血で塞がっていた。
ということで、生きていたんですがそこはたった一人、
宇宙服がなければ息もできないし、夜が来ればバリバリ氷点下になる環境。
食料は6人分あるけれど、順調に次の探査船が来るまではとても持たない。

まずは自分の傷をなんとか治療して、おっしゃおっしゃと気合を入れるマーク。
植物学者なめんなよ、ってな感じで、4年間を生き抜くための日々を始めるのです。


見てなによりも思ったのは、知性というものの大切さですね。
宇宙の厳しさというのは「グラヴィティ」でめちゃめちゃ見せつけられたんですけど、
それでも生き抜けたのはマークの知識のたまものです。
ずーっと昔に送られた探査機を掘り起こして再利用し、
ありとあらゆる修理をやってのけ、イモの栽培をこなしていく。
隊長の残していった音楽と一緒に生き抜いていく姿は素晴らしいの一言。
そして、ほんのかすかな痕跡から、マークの生存を確認しコンタクトをとったNASA。
火星という世界の果てで使えるものをフルに利用して、
コミュニケーションをとるっていうのがものすごくロマン。
最後までハラハラ、彼は無事に生きて戻れるのか……と楽しく見ましたよ。


ただ、引っかかるのはあの絶対的な孤独に対して、
たまにちょっとキレるだけですんじゃうマークのあまりのタフさが正直
リアルじゃないなってとこですかね。
あの環境で正常な精神保てるとかどういうことだよ……って。
グラヴィティのサンドラ・ブロックは宇宙船爆発→地球への帰還だけで
相当追い詰められてましたけど(当たり前なんだけどさ)
マークすごすぎない?ってなりました。
エンタメ映画なんだからそんなこと言わなくていいんだけど、
そういう点も含めて、ザ・アメリカって感じの映画だなと思いました(悪い意味ではなくて)。

あと、思い出したのは手塚治虫の「火の鳥」ですね。
宇宙を舞台にした作品が多くて、コールドスリープとか、惑星探索とか、
ああいう物語が無理のない実写で見られるんだなってしみじみ思いました。
CGすごいなあって単純に、楽しめる作品なんじゃないですかね。

*グラヴィティは邦題が「ゼロ・グラヴィティ」だったんですけど
 映画の内容的にむしろ原題そのまま「グラヴィティ」にしなきゃダメだろ
 って強く憤ったので「グラヴィティ」と表記してます。
 3Dで見ると最強の映画でした。

2017-01-08(Sun)

恋のはじまりはレモン色

ビッグコミックスピリッツを愛読してきてずいぶん長いのですが
これまでにあったイカした連載漫画の中でも相当上位にきていた
原克玄先生の連載が終わってしまいました!(結構前に)

みんな生きてるから始まって、るみちゃんの事象、恋鰹、
スピリッツに掲載されている短編、不条理ギャグ系は
結構粒揃いだと思うんですけど(くまプーとか江戸むらさきあたりから)
原先生のは本当に素晴らしい破壊力、常識のなさ、
ラインの引き方が天才的だったのではと思っています。
下ネタもほんと、どーしよーもねえなあ!って笑える範囲でして。

で、恋鰹の最終巻もそろそろ出ているだろうかと思ったら
出てましたー。新しいやつ。それが「恋のはじまりはレモン色」。

これまでにヤバイキャラクターは山ほどいましたが、
イケメンが、っていうのはなかったよねということで、新境地。

男子高校生が本格的にヤバイとこうなるんだって、
割とリアルにつきつめたのかなあと思います。
残念イケメンどころの話ではなく、
神谷君についていくかえでちゃんは本当に素晴らしい。
つっこみながらもついつい愛してしまうっていう。

つくづく、笑いは才能だと思います。
原先生は神に愛されてますよね。
で、あの絵柄ですけど、たぶんイケメンなんじゃないかと勝手に思っています。

るみちゃんの事象、るみちゃんの恋鰹、
みんな生きてる、かばやし、ブラザー 全部おすすめです。
個人的には「みんな生きてる」を推したいけど、
るみちゃんの事象でたまに出てくるスポーツ解説の二人組も最高。

原先生のAmazon作者ページはこちらです。愛してる。




2017-01-04(Wed)

「トゥルー・ストーリー」「ドリームホーム 99%を操る男たち」

「トゥルー・ストーリー」

2015年の、アメリカの作品。
ジョナ・ヒルとジェームス・フランコってことで
ドあほな話かと思ってたら違ってたというか別の作品と勘違いしておりました。

ジョナ・ヒル演じる主人公のフィンケルはニューヨーク・タイムズの記者だったんだけど
内容をよりドラマチックにしたいという思いからか、記事を捏造してしまう。
それはすぐにバレて失職。
なんとか復活しようとネタを探していると、
自分の名を語ったという殺人犯の話が舞い込んでくる。

妻と三人の子供たちを殺したというロンゴと接見し、
心を通わせていくフィンケル。
自分たちは似ている、真に通じあえている。
無実を信じ、彼の物語を書き上げよう……なんて思っていたら
ロンゴの話はなにが真実でなにがウソなのかわからなくなっていって、

という話。

あけましておめでとう映画にしては重たかったなーって印象。
邦画だったら「凶悪」、洋画だったら「カポーティ」を彷彿とさせる作品でした。
詳しく話を聞いて、自分だけに打ち明けてくれているんだと感じたり、
すべてを世間に公表しなければ、それができるのは自分だけなんだと
特別な使命感に駆られていくうちに精神的に危うくなる、
っていうのは万国共通の話なのかもしれません。

共感というのは人間に必要な力かもしれませんが、
自分に起きた出来事だってなにもかもが真実なのかどうかわからないくらいなのにね、
他人の話が全部本当だなんて、というかそもそも、
すべての事象に正解があるかどうかなんてわかりゃしないのがこの世界ですから
思い入れが強くなればなるほどバランスは崩れていって
とてもあてにできないものになってしまうのだなあなんて思いましたよ。

だけど、なんとか記者として蘇りたいフィンケルは
その気持ちを利用され、翻弄されてしまいます。
そんな考え方をする男なんだと記事から見抜かれちゃっていたのかも。
悪意を持て余した男の、気まぐれな遊び。
そんな人間がこの世にいるんだっていう、恐ろしい話でした。実話だし。

その後記事を書けなくなったというのは、カポーティとおなじ。
信頼できなくなったんだろうなあって思います。
言葉も会話も、自分の思いが直接、間違いなく伝わることはありません。
受け取り手によってすべて違う。
その場で消えてしまう声は、訂正がきかないし、
その後まで残り続けてしまう文字は、なかったことにはできないし。

伝えるって勇気のいる仕事だよね……。と、しみじみしました。


あとは、書き忘れていたけど「ドリームホーム 99%を操る男たち」も見ました。

こちらはアメリカの住宅事情、特にリーマン・ショック後に起きた
住宅ローンを支払えずに家を差し押さえられた人たち続出現象について。
とてもシビアな追い出され方をされるという悲劇と
本当にお金を持っている一部の人たちだけが甘い汁を吸っていたんだよ
っていうとても厳しい現実を描いたサスペンスでした。

会社をクビになった時なんかもすんごいシビアな印象のアメリカですが
(外資の会社なら日本国内でも大変そうなんだけど)
家を追い出されるときはもっと厳しい。警官が来て追い出されちゃうし。
日本って優しいのな……って思いました(本当に図々しい人相手にはやきもきしますけど)。

結局この世は金と知恵……みたいな無常観漂う映画。
アメリカの経済、ローン、住宅事情も知っていればもっとこの無常を味わえるかも。

次はそろそろ「オデッセイ」みようかな!

2016-12-29(Thu)

「二重逃亡」

「二重逃亡」

2016年アメリカ映画。
原題は「Term Life」で、主人公は犯罪計画を作って売っているというニック。
裁判所に保管されている多額の現金を奪うプランを売り渡してみると、
計画はうまくいったのに逃亡先で実行犯たちが殺されてしまう。
それが実は麻薬王の息子で、ニックに殺されたと勘違いされて逃亡スタート。
ところが敵は一人じゃないんです。
離婚した元妻に育てられていた一人娘のケイトを連れて、
親子でぶつかりあいながらの逃亡劇が始まる……!というお話。

まずはニックが「犯罪計画プランナー」っていうのがなかなか面白い。
実行には移さないけど、完璧なプランを作って売るという。
侵入ルートから使う道具まで全部セットで売ってくれるのでなかなか親切。

ニックが頼れるのは仲間のおっちゃんただ一人。
彼を追うのはクレイジー麻薬王と、超ブラックな悪徳警官なんです。
しかも組織でやってくるので非常に性質が悪い。
警察が堂々と悪事に手を染めて敵として立ちはだかるってかなりの悪夢だね。

とはいえニックは非常に観察眼の鋭い男で、的確に立ち回って難を逃れていきます。
最初はサイアクだった親子仲もじわじわと改善していき、
裏社会で生きるためのヒントを教えているうちにケイトも父を助けようと頑張りだすっていう。


全体的に緊張感があってなかなか面白かったです。ちょっと地味だけど。


あとは、ちょっと古いけど「ディスクロージャー」を見ました。
マイケル・ダグラス主演、元カノのデミ・ムーアが上司としてやってきて
セクハラをかまされるも、逆に「あいつにレイプされた!」って大騒ぎされる悪夢のような話。

男性から女性、だけではないはずなんだけど、
どうしても体のつくりが違いますゆえ、
女性から男性へのセクハラっていうのは難しいもんだなあと思います。
ましてや元カノの若い美女ときたら、事態はますます厄介だよね。
奥様にすべてを聞かれる事情聴取も針のむしろ感がすさまじく、
(ちょっとだけ応じちゃったりしてるもんだから余計に)
いやはや、女性の悪いところだけを抽出したかのような元カノ上司に
すっかりブルーになってしまいました。

でも、女性の敵のような扱いになった主人公を救ったのもやっぱり女性でして。
男女の平等ってむつかしい問題だよなあって思います。
これまでの歴史の積み重ねもあるしね。
お互いによく認め合い、努力しあえる仲になれるといいなーってしみじみ考えましたとさ。