忍者ブログ

2017-02-14(Tue)

「たかが、世界の終わり」「Mommy」

たかが、世界の終わり

先週から公開されたので見てきました。
カナダ映画ですが、全編フランス語なのであんまカナダ感ないかも。
というか、私の中でカナダといえばデッドプールになりすぎているだけか。

まだまだお若いグザヴィエ・ドラン監督の作品。
前に見た「トム・アット・ザ・ファーム」が結構心に残ってまして
あの監督の作品ならば見なければならない、となぜか決心。
上映している映画館が少ないので、初めて新宿武蔵野館へ。
改装したばかりということでとってもきれいで、
だけどスクリーンは小さいし前後の傾斜もほとんどなくて
なんだかとっても新鮮な気分に。


主人公は人気作家のルイ。
彼が、12年ぶりに故郷に帰るお話です。
ルイは実は余命いくばくもない状態でして、
自分はもうすぐ死ぬのだと、家族に告げに帰るんです。

待っていたのはちょっと陽気な母と、
小生意気だけどルイにあこがれていた妹、
そっけない兄と、その妻の四人。

空港からタクシーで実家を訪れたルイを、
この四人が迎えてくれるんですが、
そのシーンだけでもう家族の関係性がズバっと浮き彫りになって。

開始5分でもういたたまれないんです。本当に。
妹はあまり一緒に暮らしたことのなかった素敵なお兄さんと近づきたいけど、
そこに長兄の横やりが入りまくってしまう。
母はちょっとズレたテンポで兄弟の溝を埋めようとするも、むしろ逆効果。
そこに、初対面の兄嫁がいることでさらに事態は寒々しくなっている。
初めてだし、どう接したらいいかわからないし、
夫である長兄からは冷たくあしらわれるし、義理の母のテンションも意味不明だし。

ルイはただ静かに微笑み、一言二言返すだけ。
家族の歴史が少しずつ語られますが、
ルイがどうして12年もの間離れていたのか、わかっていきます。

自分に死期が迫っているのだと伝えたくて。
いくらあんまりうまくいかない家族だとしても、
知らないなんてあんまりだから。

ルイはそう考えて、決意してかえってきたと思うんです。
だけどね、だけど、家族はそんな話だなんて想像つかない。
想像つかないのは当たり前なんだけど、
だけどね、聞かないんです。
ルイだけが息苦しい家族の鎖から外れて、自由だって思いこんでいるから。

兄はよくできる弟が妬ましくてたまらなくて、
それであんなモラハラ野郎になってしまったんだろうなあ、とか。

あまりよく知らない素敵なお兄様にあこがれすぎて、妹は空回り。
ルイのように自由になりたくて、だけど一人で飛び立つのは怖くてできない。

母は陽気なふりをして兄弟の溝を埋めようとするけど、うまくできない。
こどもたちを平等に愛しているけど、そう思っているのは自分だけで、
こどもたちからするとひどく歪な三角形が出来上がっている。

そんな不協和音の中にさらされて、兄嫁は困惑するばかり。
夫をたてたい、不機嫌にさせたくない、争いが起きてほしくない、
夫の家族とはいえ、じぶんだけが他人で、どう立ち回ればいいのかわからない……。

ぎこちないまま家族はお互いの心をぶつけあって、
お互いに摩耗していくばっかりなんです。
ずっと、きっと、こうだった。
だからルイは家を出た。たぶん耐えられなかったんじゃないかな。
だけどいなかったことで、家族は余計に遠くなってしまって、後悔は募るばかりで。

どんなに反りが合わなくても、どんなに理解しあえなくても、
血のつながりは切れない。それがどれだけ残酷なことなのか、
最後の最後、ルイが自分のことを話そうとした瞬間のあのシーンで
いやってほど思い知らされてしまいます。

家族ってあったかくって、仲良しで。
そういう家庭の人もいるでしょう。
むしろそんな家庭ばっかりだったらしい。
もしも家族が酷いひとならば、縁を切って当然だって言ってもらえるくらい
本当にひどい連中だったほうがまだ救いがあります。

誰も悪くない。悪気なんかない。だって仕方がない。
うまれもったものが違うから。一人で去る勇気がないんだから。
仕方がないから、性質が悪い。

お母さんの「次は大丈夫」って言葉がキツイ。
美しくて、先進的で、才能があって、素晴らしい人間なんだから。
だからあなたが、我慢しなさい。我慢できる人間が我慢しなさい。
きっとあんなにも重たい告白をする旅でなければ、耐えられたでしょう。
だけど、ルイを待ち受けているのは永遠だから。
家族にこれ以上の別れを突き付けられずに、彼は母の望んだとおりの言葉を口にするしかなくて。

なんて悲しい話なんだろうって、心がカラカラに乾いてしまったような気分になりました。

そんなにも悲しい話なのに、最後まで目が離せないんだよね。
それは、監督の力なんだと思います。本当に。
素晴らしいよね、ドラン監督は。


で、これを見る前にチェックしておかなきゃってことで、
Mommy」も見たんです。

こちらは、ADHDの息子を持ったシングルマザーのお話。
夫が3年前に亡くなってシングルマザーになったダイアンのもとに、
手に負えないからという理由で、発達障害の息子が送り返されてくる。
スティーヴはADHDに加えて、愛着障害も見られる。
一度キレると手に負えない。いくつもの施設で預かられたけど、
どこも匙を投げてしまって、母親のもとに帰ってくるんだけど……。

こちらももう、おそろしくディープな作りでしてね。
リアルなんだと思います。発達障害ってなんだろなってなった時に調べてみると
いろいろありすぎてなにがなんだかってなってしまうんですけど、
スティーヴはたぶん一番大変な部類に入るんじゃないでしょうか。

行動は、普通のこどもと同じでなんでもできちゃう。
どこへでも行けるし、会話だってできる。
だけど歯止めが利かないし、相手の立場にたって考えることができない。
共感とか、ブレーキとか、欠けているものがたくさんあって、
社会生活を送るのはとても大変なんです。

ダイアンは本当によく頑張って、仕事もするんだけどね。
でも、スティーヴはキレると盗みもするし、暴力も振るってしまう。
薬は飲みたくない、施設なんかに入りたくない。
もちろん、母だって思いは同じ。
ユーモアを持って息子を受け入れ、付き合っていく。
だけど、現実は親子の愛だけじゃ乗り切れるものではなくてね。

新しく引っ越した先で出会った吃音に悩んでいるカイラの協力を得て
親子は少しずつ頑張っていく。
この出会いは休職中のカイラにも変化をもたらして、
いいこともあれこれあったんですけど、でも、最後はね……。

途中いろいろあって、スティーヴに「僕を愛してる?」って聞かれてね。
ダイアンはこう答えるんです。
私たちにはそれしかないでしょ、って。

どれだけ大変でも、どんなにつらくても。
母は子を愛すっていう。


思うことは、たくさんあります。
こんなにも深く考えさせられるってだけで
ドラン監督の作品は素晴らしいです。

まだ見てない作品も見てみようかなと思います。はい。

PR

2017-02-06(Mon)

「DRAGON」

「DRAGON」

2015年のロシア映画。
公式サイトとかが見当たらないので、
どの作品かわかるようにAMAZONの商品ページへリンクを貼っておきます。

WOWOWでやってたのでみてみたんですが、あたりでした。

あるところに長い間悪いドラゴンに苦しめられてきた国があって、
若い娘をいけにえに捧げていたんです。
真っ白い衣装をまとった娘たちは小舟に乗せられ、海へ流され
村の人々は彼女たちを送る歌を歌うんです。
するとドラゴンがやってきて娘たちをさらって去っていく。

ところがある時、恋人を奪われたことに怒った男が立ち上がり、
ドラゴンを倒すんです。
村には平和が訪れ、いけにえの儀式だけが伝統として残ります。

時は流れて、
ドラゴンを倒した勇者の孫と、領主の娘の結婚が決まったところから物語はスタート。
ドラゴン殺しの勇者の血縁だからと、結婚式のために
いけにえの儀式を模したセレモニーを行うんです。
花嫁のミラはちょっと鼻っ柱の強いお嬢さんで、
愛はないけど英雄の孫だしいいよね!くらいで結婚を決め、
まだ未婚の姉ちゃんを小ばかにする始末。
ドラゴンがいたら面白かったのになーなんて軽口をたたくようなお年頃なんですが
彼女が船に乗り、いけにえを捧げる歌を歌い始めたらさあ大変。
滅びたはずのドラゴンがバッサバッサと飛んできて、
ミラを小舟ごとさらっていってしまうんです。

ドラゴンの棲む島は絶海の孤島で、
隠された航路を知っていなければたどり着けない場所。
ミラは島の深い穴に落ち、そこで名のない謎の青年と出会います。
この青年が実はドラゴンなんですが、
今の意識を失って完全にドラゴンになってしまうことに抗っているという設定。
細マッチョの美青年と、きれいな少女であるところのミラは
お互いを知り合い、少しずつ心を通わせていき……

というラブロマンスでした。
これがねえ、いいんですよ。
ドラゴンの描写もいいし、設定もいい。
最初は世間も愛もしらなかった娘が成長し、
素敵な女性になっていくさまもいいし、
二人の愛がもたらす奇跡も超いい感じで、
とにかくこういう異種族間恋愛とか、悲恋好きはみたらいいぞ!と
おすすめしたいところであります。

実際みた方がいいので、細かいネタバレはしないでおきますが
いやー、本当、ドラゴン青年男前でした。
声がココリコの田中さんみたいでしたけども、
ミラの美しさ、最後のお姉さん、お父さんとのシーンも良くてね。
っていうか恋敵であるところのイーゴリも男前で
眼福映画でもありました。ロシアすごい。

2017-02-03(Fri)

「ザ・ヴァーチャリスト」

「ザ・ヴァーチャリスト」

2015年、イタリアの映画。

地味でさえないオタクの高校生2人が、
偶然発見した天才プログラマーの作り上げた
感覚没入型のヴァーチャルワールドの世界へ入り込んで
ああだこうだするお話。

全体的にはちょっと半端な出来なんです。
ヴァーチャル世界に入り込んでしまいたいフランチェスコと、
彼にゲーム・セラピーと称した遊びを強いられて
じわじわリア充になっていくジョヴァンニの対比はいいんだけどね。
ゲーム世界の映像はとても素晴らしいのに、
ところどころ細かいところが甘くて、
最終的には世界の創造主との争いになるものの、
ワチャワチャしているうちにウワー みたいな終わり方をしたので。
それをとてつもなくカッコイイ風に描いているので
見ている側からするとギャップがあって乗り切れない……みたいな。

もうちょっとフランチェスコ側の心理を丁寧に描いていたらよかったかな。
同類だと思っていた友人においてけぼりにされて、
狂っていくくらいでも良かったのでは……と思います。

とはいえ、現実ではできないんだからゲーム世界でコミュ障直そうぜ!
からのジョヴァンニのリア充化と、それを許せないフランチェスコの描写は面白かった。
イカした彼女ができて割とすんなりベッドインして、
それについて「なんか想像と違ってた」と正直に話し、
「AVとは違うんだよ。なんかゴメンね?あんたのあこがれてたのとは違って!」
みたいに怒られるシーンは結構よかったですし、
そういう風に思ってもバカ正直に話したらダメなんだよねえって。
でもしょうがないよね、経験が少ないから……
怒る彼女にも、素直な彼氏にもうんうんってなる自分がバカだなあって感じて
そのへんはとても面白かったです。

そういう青春ムービー的な側面と、ゲーム世界の謎ときのサスペンシブな部分が、
うまくバランスとれてなかったかなって感じでしょうか。
「クロニクル」くらい追い詰められ要素が入ってたら化けたのかも?
なんて思いました。


2017-02-02(Thu)

「ドーンオブザデッド」「ギャラクシー・クエスト」

ハリウッド映画を2本。

「ドーンオブザデッド」
2004年の作品。ハイスピードゾンビサバイバル映画。
もともとは1970年代につくられた「ゾンビ」のリメイクということですが
ゾンビパワーアップしすぎでしょ、ってところでしょうか。

ある日唐突に現れたゾンビに襲われて、
人々はあっという間に死に絶えていく世界。
運よく生き残った人たちがショッピングモールに立てこもり、
そこからちょっとずつ、希望と絶望を得ていく物語。
ゾンビがとにかく足が速いんですよ。
生きた人間に気が付いたらソッコーで全員集合して追ってくる。
ゾンビが出現してすぐの頃にはまだテレビの放送があって
そこに映った保安官の発言はかなりソリッド。
普通に頭を撃ってぶち殺すしかない、あとは焼いてしまえ、みたいな。

モールに集った生き残りたちは途中でゾンビになる原因を特定します。
噛まれてしまってはダメなんだと。
せっかく生き残った人々も少しずつ減っていき、
待望の赤ちゃんが生まれようとしている夫婦も、
せっかく逃げ延びたと思っていた父親と娘も、容赦ない別れを強いられていきます。

モールの中で安全を確保したあとの享楽的な過ごし方とか、
もしもこんな世界で生きることになったのなら……という
人間の描き方はとてもリアルだったなあと思います。

モールから離れたところで一人たてこもっていた武器屋のアンディ救出作戦から
物語は一気にクライマックスへ進んでいき、
なんとか新天地を目指そうとしていた人々は
仲間を失いながらも船に乗り航海へ……。

でも行きついた先も結局は地獄でした、という救いのなさすぎる終わり。
悲しいよねー。あれがアメリカだけでのことでしたー!
とかならまだいいんでしょうが。
とにかくゾンビがパワフルでして、
倒し方も超パワフルなので見ててイヤッホーな部分もありましたが
あんな世界の到来はいやだなあと心底思いました。




「ギャラクシー・クエスト」
こちらは1999年の作品。

20年ほど前に放送されていたSFドラマ「ギャラクシー・クエスト」。
そのキャストがSF大会でファンにもみくちゃにされているところから物語はスタート。
演じていた役者たちは今はそんなに仕事もなくて、
熱烈なファンたちと比べてとってもクールで落ち込んでいる。
お互いの仕事量やファンの数など、嫉妬したり見下したり。
とはいえ、結局は売れない役者でしかない彼らは空虚な日々を過ごしているんだけど
この日はファンの中になんだかちょっと妙な集団が混じっていた。

彼らは正真正銘の宇宙人で、「ギャラクシー・クエスト」を
勇敢に宇宙を旅したクルーたちの物語として、お手本として見ていたという設定。
サーミアンという名の彼らは悪徳宇宙人サリスに困っており、
クルーを招いて導いてほしいと願う。
そこからうっかり、宇宙をまたにかけた旅が始まってしまうのであった……。

という話で、これはとっても面白かった。
今のCGで作り直してほしいなってくらい楽しかったw
最初のSF大会の様子とか、こういうの日本でも特撮会とかであるんだろうなあと。
役の中でいやいや言っていたセリフも、
真剣なサーミアンたちの姿に打たれて本物に変わっていく。
そういうアツイ部分もあって、いや、名作でした。

ひさびさに軽やかな楽しい映画を見たかもしれません。

2017-01-17(Tue)

「SPY TIME」

「SPY TIME」

2015年スペインの映画。
最近私の中で急上昇中のクレイジー株、スペイン産の映画です。
「スガラムルディの魔女」でも思いましたけど、
スペインも笑いのセンスが独特よな、って。
イタリアともフランスとも違う、なんとも言えない無常感。

荒涼とした岩山を行くタキシード姿の男。
彼は「失敗しない」スパイ・アナクレトで、
囚人の移送をしようとしているところ。
ところが計画は漏れており、車はバズーカで破壊され、移送は大失敗。
それどころか「お前の息子ボッコボコにしてやっかんな」と宣言され、
アナクレトは大慌て。
彼の息子、アドルフォはすごく普通の社会人で、
ちょうど彼女にフラれてしまったところ。
なんとかヨリを戻そうとしていたら、突然ヘンテコな武術使いみたいなやつが襲ってきて……。

というコメディ映画。
アクションは若干緩めかな?
アナクレトはバリバリのスパイであるのに対し、息子はぼんくら……
かと思いきや、日々の遊びの中でめっちゃ鍛えてましたから
みたいな感じで才能が開花していき、
最後は親子二人でラスボスに立ち向かうという。

フランス映画を見ていても思いますが、
親子間でのセクシャルな話題の許容量がいまいちわかりません。
わからないので、笑いどころなのかどうかがつかめないっていうね。

そしてこれはとてもわかりやすいコテコテのコメディなのに
たまにすんごいゴア表現差し込んでくるので油断が出来ないっていう。

もうちょっとアクションがキレてたらよかったかなあ。
父ちゃんの飄々とした雰囲気はいい感じで、
ハリウッドでリメイクすると失われちゃう部分かと思うので
全体的にスピード感が出ればもっともっと楽しかったかなって。

スペイン特有の地獄感が背後にちらほらと垣間見えたので
そういう意味ではとても満足です。