「
シング・ストリート」
2016年、アイルランド・イギリス・アメリカ制作の映画。
いやーもう、ひさびさに心に超ヒットしましたよ。
満足度は100%で間違いないです。
時代は1985年のダブリン。
不況に見舞われ、父は失業、母も仕事が減り、夫婦の仲は破綻寸前。
兄は大学中退、姉は勉強中、末っ子の主人公コナーは
生活費確保のために公立の高校へ転校を余儀なくされてしまう。
新しい学校は「シングストリート高校」。
一歩入るなり不穏な空気が渦巻くところで、
いじめっこにからまれ、校長から靴の色が校則違反だと言われ靴下で歩く羽目に。
最悪な日々の中、また暴れん坊にからまれて、
うんざりのコナーに声がかかる。
なんだか抜け目のなさそうなダーレンは「コンサルタント」で、
なんかあったら俺が話をつけてやるよ、なんて話に。
そしていつもいつも学校に着くと、向かいの家の前にミステリアスな美少女がいる。
自称モデルの少女ラフィーナの美しさにすっかりノックアウトされたコナーは
彼女の気を引くために「バンドのMV撮影をするから出てよ」と声をかける。
そこから本当にバンドを組んで、音楽を始めて、MVを作っていくんだけど……
というお話。
高校生という半端な身分で、生活がギュウギュウに苦しいという
人生で一番「苦しいことを苦しい」と感じてしまう世代が頑張る話でした。
コナーはダーレンの人脈をフル活用して、
楽器ならなんでもできるエイモンと出会う。
ダーレンをマネージャーに据えて、エイモンと一緒にバンドメンバーを探す。
学校で唯一の黒人だからとンギグをドラムに、
メンバー募集の張り紙のひどいいたずら書きに負けずに応募してきてくれた
ギャリーとラリーも加え、5人組のバンドが出来上がり。
最初はあこがれのデュラン・デュランのコピーをしていたものの、
録音したテープを聞いた音楽オタクの兄、ブレンダンは「コピーはやめろ」。
他人の曲で女が口説けるか、と叱咤され、コナーはエイモンと一緒に曲作りを始める。
この、兄貴がいいんです。ブレンダンは夢破れて、家でただただレコードを聴く日々。
弟の中に光を見たのか、逐一アドバイスをしてくれるという立ち位置でね。
そして見た目はもっさい冴えないエイモンが、かなりの万能キャラクター。
いつ何時に行こうと、一緒に曲つくりをしてくれるんです。
そしてとうとう一曲目ができて、本当にラフィーナを呼んでMVを作る。
素人の高校生がひどい格好で集合していたのに、
ラフィーナは少し呆れつつも、撮影につきあってくれます。
見た目をよくしなきゃとメンバーにもメイクをして、
彼らの作った音楽の良さに真摯に目を向けて、
コナーたちの作品に大きな花を添えてくれるのです。
その後も、次々に現れるその時代のスターたちの影響を受けながら、
音楽活動を充実させていくコナーたち。
学校にも逆らい、家庭はますます冷え切っていくけれど、
逆にそのせいなのかもしれないけれど、音楽の道をひたむきに走っていきます。
コナーも、ラフィーナも、そして兄貴のブレンダンも、
みんな自分の夢や人生について考え、悩んでいるんですけどね。
もちろん、うまくいかないこともある。
キラキラしたかけらはいくつも拾えるけれど、
それで人生がすべて輝き始めるはずもない。
長い長いこれからの道を、自分はどんな風に歩んでいけばいいのか、
その願いが叶うのか……
若いうちは未来が見えなさ過ぎて、苦しいものだよなあって。
そんな中でコナーは、悲しみの時があっても、それでも前に進んでいまして。
劇中のクライマックスともいえる、ラフィーナのいないMV撮影の日。
あのシーンはとても華やかなんだけど、
その分切なくてなんかしらないけどめっちゃめちゃ泣いてしまいました。
兄貴のギターがうなり、校長が飛び回る。
あんな世界が本当にあったらいいのに、現実ってそうじゃないんだよね……。
だけど最後には、コナーの放つ強い光にみんなが救われた、みたいな感じで
とても希望に満ちた、力強い終わり方をします。
女の子の気を引くために始めたバンド活動だけど、
音楽への思いも本物だったから、だからあんな風に強くなったのだなあって。
コナーの歌がとても素敵なんです。歌詞もとてもいい。
時代の輝きを取り入れながら、すごくいい音楽がずっと流れていて
とにかく見ていて気持ち良すぎる名作でした。